第16章 純黒の悪夢
腸は煮えくり返っているけれど、挑発に乗ればそれこそ術中にハマるだけだ。
「フッ…関係の無い一般人に手をかけるほど、組織が落ちぶれていたとは…残念ですね」
「なんだと?」
ジンの額に筋が浮かぶ。
怒りは買ってしまったが、矛先は自分に向いたようだ。
だが冷や汗は一向に止まりそうもない。
「尋問でもしたんですか?まぁ何も出てこなかったでしょうけど…彼女は本当に何も知らないんですから」
この時ばかりは、柊羽が記憶喪失になったことに感謝した。
「アァそうだな。ナニをしても、口を割らなかったぜ?よく躾できてるじゃねェか」
そう言って、ジンは転がる柊羽の頭をつま先でつついた。
その行為だけでも安室は頭に血が上る思いだった安室だが、頭の向きが変わったことで顕になった柊羽の首筋を見て全身の血が沸騰するのではないかと思った。
「…いい趣味してますね」
「お褒めに預かり光栄だな。ご所望とあらば目の前で続きをしてやってもいいんだぜ?」
「遠慮しておきますよ。そういう趣味はありませんので。」
なんとか怒りを鎮めながら、この男はいつか絶対自分の手でしょっぴいてやると誓った。
「無駄話は終わりだ。これを見ても折れねェんだな?」
「折れるも何も…僕はNOCではないと言ってるじゃないですか。それ以上でも以下でもありませんよ」
「いつまでその涼しい顔が続くか見ものだな。キール、よく見ておけよ…先にお前に死に顔を拝ませてやる。」
「ジン…!まさか本当に…!」
「そうだな…10秒だけ猶予をやるよ。ウォッカ、数えろ」
「分かりやした」
チャキ…
銃口が向けられる。
ウォッカの数字をカウントする声や、焦るキールの声がこだまする。
(くそっ…どうする!)
最早打つ手なし、か…
無常にも銃声が響き流石の安室も諦めかけたその時。
覚悟していた痛みは来ず、視界が暗転した。
「なんだ!何があった!」
(ヤツらが狼狽えてる!これは不測の事態…ということはチャンスだ!)
誰の仕業か知らないが、脱出するなら今しかないと安室は暗闇の中慣れた手つきで手錠を外す。
(悪いなキール…でも君ならなんとか出来るだろ?)
仲間を助けたい気持ちもあったが、安室はそれよりも大きな気がかりがあった。