第16章 純黒の悪夢
「勿論、あの人を連れ戻すためですよ」
どうせ何を言っても疑われている身。
何があっても動揺するな。
そう自身に言い聞かせる。
「ふふっ、てっきり記憶が戻る前にあの人の口を封じに来たのかと…」
「なぜ僕がそんなことを?言っている意味がよく分かりませんねぇ」
シラを切るしかない。
大丈夫、話術は恐らく相手よりも長けている。
「じゃあどうやって接触するつもり?あの人は厳重な警備の元"面会謝絶"よ…それとも貴方なら、簡単にあの人に会えるのかしら?例えば、警察に特別なコネクションでも」
「さっきから何の話をしているんですか?」
「まあいいわ。立ち話もなんだし、場所を変えましょう」
ベルモットはそう言って、脅しの道具をチラつかせた。
別にそんなもので動揺する安室ではないが、ここには仲間も多くいる。確かに長居は避けたいところだ。
「それが組織の命令だというのなら、仕方ありませんね」
観念したフリをして、相手が優位に立っていると思わせるのも作戦のうちだ。
「命令、ね…そうじゃなくても貴方はきっと来るわよ」
果たして何の事か。純粋にそう思い首を傾げていると
「貴方のだーいじな子猫ちゃん、ちゃんと首輪をしておかないとね?」
「まさか…」
「ふふっ、さぁ行きましょ?」
何があっても、動揺するな…
こんなのただのハッタリで、罠かもしれないんだ。
そう思おうとはするのだが、万が一、億が一の可能性を考えると安室の不安は拭いきれなかった。
(柊羽…無事でいてくれよ…っ!)
*
時を同じくして、コナンも柊羽の安否が気がかりでそわそわしていた。
(ポアロの手伝いするって言ってたし…でもそれにしちゃー返事が来ねぇ。梓さんの事だから休憩はとっくに取らせてるはず…)
あれこれと考えていたものの、一刻を争う今、悩んでいる時間などないのだ。
『はい、喫茶ポアロです!』
「あ、梓さん!コナンです!柊羽姉ちゃんいる!?」
『あ、それが買い出しに行ってもらったんだけどちょっと帰りが遅いかな~って思ってたところで…』
「外に出たの!?1人で!?」
『え、う、うん…何かあったの?』
「ごめんなさい今は急いでるから!ありがとう!」
『え、ちょ!コナン君!?』
(くそっ!急がねぇと…)