第16章 純黒の悪夢
「お楽しみ中悪いけど、ラムからよ。キールは身柄を拘束。バーボンも急げってことだから私が行くわ。…この子はどうするの?」
そう言いながら、組織の幹部_ベルモットは変装を解いた。
「まだ使えそうだからな、連れていく。にしてもバーボンに化けるなんざお前も中々いい趣味してやがる。」
「脅すフリして楽しんでた貴方に言われたくないわ。彼女はあくまでも人質よ。」
「遂にあの鼠を追い詰められる日が来たのが嬉しくてな。」
「まっ、何でもいいけど…じゃあ私は行くわ。キールは埠頭の倉庫にいるそうよ。」
「あぁ…行くぞ、ウォッカ」
「へい、兄貴!」
ベルモットは部屋をあとにしながら、柊羽を運ぶ2人の様子を盗み見ていた。
(もし…もしも本当に何も知らないんだとしたら、気の毒ね。バーボンも情に絆されることがあるなんて。)
柊羽がどのような立場であっても、バーボンの弱味になるかもしれないと思うとベルモットの口は弧を描く。
それはまるで玩具を見つけた子供のように。
(まぁ、バーボンがNOCではなければ、の話だけど)
バーボンとは任務で一緒になることが多い。
多少の情がないことはないが、組織の一員として心を切り替え、目的の病院へと向かうのだった。
*
渦中の人物である安室はというと、先の侵入者と接触をはかるため現在彼女が保護されている警察病院の駐車場で策を練っているところだった。
安室透のスマホに昨日から夥しい量の通知が来ていることにも気づいていたが、返す暇もなければ、不用意な接触をするリスクを犯すのも避けなければならない状況だ。
柊羽からも自分を心配するメールが来ているということは…恐らく彼女は無事だと、そう思いたい。
そんな時、公安用のスマホが着信を告げる。電話に出れば、相手はいつになく焦っていた。
『ふ、降谷さん!無事ですか!?今どちらに!?』
「東都警察病院だ。」
『まさか…降谷さん!なら自分が』
「もしもの時は、頼んだぞ風見」
あまり良いとは言えない今の自分の立場を心配する部下の声を遮り通話を終了した。
(悪いな風見。一刻の猶予も許されないんだ。)
早速ターゲットと接触するか、と車から出ると
「バーボン、何故あなたがここに?」
(くそ、やはり来たか…)