第16章 純黒の悪夢
この声は…
「透さん…?」
「ほう…自らお出ましとは。」
「彼女は関係ないでしょう?潜入先のカフェで知り合った。ただそれだけです。」
「だそうだ。間違いねぇんだろうな?」
ごくり、まさにそんな効果音がピッタリだ。
なんと答えれば正解なのか、冷静な思考は無に等しい。
「じゃあ聞くが…ただの客と店員がファーストネームで呼び合うのか?」
「そ、れは…」
すぐに否定しなければ落ち度を認めることと同じなのに、今の頭では言い訳すら思いつかない。
「強情な女だ。嫌いじゃねェが…今は急いでるんでな」
「っしまった!…ぐ…」
ドサリという音と、安室の苦しそうな声が耳に響く。
「透さん!?ね、やめて…!」
「…柊羽っ、大丈夫…だから」
「泣けるなぁ?お前が愛だの恋だのに絆されるような男だったとはな。それでも口を割らねぇんなら…そこで見てるんだな」
「っ何を!!」
焦りを顕にした彼の声に、思わず柊羽も不安になる。
一体何が、始まるのだろうかと考えていると乱暴に前髪を掴まれて。
「いっ…ん、ゃ!んむ…ふぁ、あ…」
噛み付くように唇を塞がれていた。生理的な涙が頬を伝う。
漸く開放されたと思うと
「アイツは警察の犬なんだろう?」
警察の、犬?
「なんの、話…ぁっ、やぁ!」
今度は首筋に噛み付かれる。
「吐けば楽になれるぜ?お前も、アイツも。それとも俺と愉しみてぇのか?ククッ」
男の手が、ブラウスにかかった。
それは柊羽に嫌でもこの先を想像させ、全身が粟立つ。
「いや…お願い、やめて…」
(透さん…!!)
縋るように、心で彼を求めたその時。
「時間切れです」
先程誰かに身柄を拘束されていたはずの声がした。
跨っていた男はチッと舌打ちをして離れていったようだ。
一体何が、と考えていると今度は優しく頬を包まれ、先程とは正反対の優しい口付けが降ってきた。
つい油断をして口を緩めた途端、口内に何かが流れ込む。
「んっ!?」
咄嗟に抵抗を試みるも時すでに遅し。
頭はガッチリとホールドされ、息苦しさに耐えきれずゴクリと飲み込んでしまった。
「上手ですよ」
そう、優しく頭を撫でられて。
何が起きているのか分からないまま、意識は遠のいていった。