第16章 純黒の悪夢
ぼんやりとだが意識が戻ってきたが、何だか窮屈さを感じる。
(縛られて…?というか、どこ…)
手と足は縛られていて、目も塞がれている。
周りは静まり返っていて、唯一機能している耳からはなんの情報も得られそうにない。
横たわっている場所はふわふわしているから、ベッドの上だろうか?
「目が覚めたか」
状況を把握しようとしていたら、突然聞こえた地を這うような低い声。
(誰?確かさっきは、あの女の人と…)
「安室透について知っていることを教えろ」
「透さん…?」
姿を確認することは叶わないが、この男の声からは"怒り"や"苛立ち"のような負の感情を感じ取れる。
やはりコナンの言うように、安室は恐ろしい敵に対峙している、ということなのだろうか。
「聞こえたんなら質問に答えろ」
「あなたは、誰?」
催促されたにも関わらず別の質問を投げかけると、謎の男が「ククッ」と喉をならした。
「随分肝の据わった女だなァ、アイツは気にくわねぇが女を見る目はありやがる。だが…」
言葉の途中で顎をつかまれ、上を向かされる。
ギシリと音が鳴り、僅かに体が沈んだ。
恐らく、男が馬乗りになっているのだろう。
サラリと顔に何かがかかった。
(髪の毛…?長髪の男?)
「態々俺の身の上を語るためにお前を連れてきたわきゃねェだろ」
素人の柊羽にでも分かるほどの、殺気。
少しでも選択を間違えようものなら…死ぬ、のだろうか。
自分だけならまだしも、恐らく安室もただでは済まされないと思うと全身に緊張が走り、柊羽は唇をかみ締めた。
「た、探偵で…カフェでバイトしてて…」
「くだらねぇ。俺が聞きてぇのはそんな事じゃねぇことくらい分かってンだろう?」
分かってる。
分かってはいるが…本当にそれしか知らないのだ。
忘れているのか、元々知らないのか、それさえも分からない。
こんな状況だというのに、突きつけられた現実から虚無感に襲われて。
(私って何…?人質にされたところで、透さんの弱みになるような存在なのかな)
急に自信がなくなって口を噤むと…
「柊羽っ!!」
新たな登場人物に名前を呼ばれた。