第16章 純黒の悪夢
安室が居なくともポアロのモーニングは大繁盛で、梓は改めて柊羽の存在に感謝をしていた。
元々常連さんとは客同士として顔を合わせていた柊羽は馴染むのもかなり早く、
「おーい柊羽ちゃん、コーヒーおかわり!」
「柊羽ちゃん、チェックで!」
などなど、あちこちから名前を呼ばれていた。
柊羽は嫌な顔ひとつせず、むしろ店員として役に立てていることが嬉しくて「はい喜んで!」と言わんばかりに生き生きと仕事をしていた。
(こんなの安室さんにバレたら…)
梓は朝の勢いが徐々に減速し、恐ろしい未来に身震いをした。
そしてモーニングがある程度落ち着いた頃のこと。
カランコロン___
「いらっしゃいませ!お好きなお席へどうぞ」
帽子を目深に被った雰囲気のある女が来店した。
(うわぁ、顔見えないけど絶対綺麗!そしていい匂い…)
柊羽は接客をしながらそんなことを思うくらいには余裕が出てきていた。
その女性が席に着いたのを確認し、水とおしぼりとメニューを持っていくと
「ありがとう。この店のオススメは?」
「そうですね…本当は特製サンドウィッチなんですが、あいにく今日は作り手が不在で…でも、このカラスミパスタも美味しいですよ!」
「じゃあそれを頂戴」
「カラスミパスタですね。ご一緒にお飲み物はいかかですが?」
「食後にホットコーヒーを。ブラックで。」
「かしこまりました!少々お待ちください」
やり取りを終えた柊羽は、梓に注文を伝えにいく。
「梓ちゃーん、カラスミパスタひとつ!お願いします!」
「はぁ~い!」
「ポアロのオススメって紹介しちゃった」
「え、えー!?そんな…!」
「ごめーん!でもいつも美味しいから絶対大丈夫だよ!」
「もう柊羽さんってば…」
梓はそうは言いつつも、柊羽があまり見せないイタズラっ子のような一面が見れたことが嬉しくもあった。
柊羽は柊羽で、今は本業も落ち着いているし、こうしていると余計なことを考えなくていいなと思いつつも
(でもやっぱり透さんのことは気になるけど…あとでもう一回連絡してみようかな。)
と、考えていた。