第16章 純黒の悪夢
着信は、阿笠博士の携帯だった。
博士は子供たちにも聞こえるようにスピーカーモードにしており、洗い物をしながらだとハッキリは聞こえないが、相手はどうやらコナンのようだ。
内容はわからないけれど、雰囲気から察するにまた面倒事に巻き込まれているらしい。
記憶のなくなった柊羽ですら、コナン=事件というイメージを持つほどには、頻繁に事件が起こるのだ。
(不憫…いやでも、コナン君は結構その状況を楽しんでそうだな…)
などと考えていると、ふと光彦の声が響く。
「えーっと…スタウト、アクアビット、リースリング…って言ってました」
またチクリと、頭の奥が痛む。
それはつまり、記憶に関係していることだと思うのだが、聞こえてきた単語がなんなのかすらさっぱりだ。
本当に心当たりがないかぐるぐると思考をめぐらせていたが、とある人物の名で現実へと引き戻されることとなった。
「安室さんか?そういえば今日は見とらんのぉ。」
「安室さんなら今日は休みですよ。今朝突然休ませて欲しいって電話が掛かってきてそれっきり…」
そうだ。自分のことばかり考えていたが、安室とまだ連絡が取れていない。
柊羽はもう一度朝送ったメッセージを確認してみたものの、既読にはなっていなかった。
(どうしたんだろう?何か…胸騒ぎがするなぁ…)
するとまた、阿笠博士の声に耳が反応する。
「ん?柊羽君ならポアロにおるぞ。」
ふとそちらを見やると、博士と目が合った。
「柊羽君すまんのう、しん…コナン君が代わって欲しいそうじゃ。」
博士はそう言うと、スピーカーモードをオフにしてスマホを渡してくれた。
「もしもし?コナン君?」
『あ、柊羽姉ちゃん?良かった…』
「良かった、って…何かあったの?」
『あ、いや、そういう訳じゃなくて…』
「透さんのこと、何か知ってるの?連絡がとれなくて…」
『僕も何が起こってるかは分からないけど、もしかしたら危ないことに巻き込まれてるかもしれないね…でも安室の兄ちゃん強いからきっと大丈夫だよ!』
「そう、かな…」
コナンのことは信頼している。
けれどやはり胸のざわめきは治まらなかった。