第16章 純黒の悪夢
考え出したらキリがなかったので、柊羽は気を取り直しポアロのお手伝いに専念していた。
使用済みの食器を流しに運び洗っていると、カウンター越しにお昼休憩中の刑事さんから声をかけられた。
何を隠そうポアロは、この辺りを担当する刑事さんたちの憩いの場なのだ。
「お姉ちゃん、新人さん?見ない顔だね」
「あ、はい!今日は臨時のお手伝い…で…」
何気ない会話であったが、その瞬間柊羽は周りから世界が切り離されたような感覚に陥った。
『んー?見ねぇ顔だな。新人か?』
『ほんとだ!可愛いなぁ~名前は?』
『え、と…今日から働くことになりまして…』
似たようなやり取りだ。
だが映像がはっきりと浮かんでこない。
記憶の一部かもしれないと、必死に思い出そうと集中していると、ズキリと突き刺すような頭の痛みに顔を顰める。
「お、おいお姉ちゃん、大丈夫か?」
「柊羽さんっ!」
動揺した刑事の声に反応した梓がすかさず柊羽に駆け寄った。
当の本人はというと、心配する声をうっすらと聞きながら、襲いかかる痛みをなんとか逃がそうとしていた。
「っごめ、なさい…偏頭痛、かな?もう大丈夫です。」
梓にはとても大丈夫には見えなかったが、そう言われてしまえばそれ以上の追求はできなかった。
だがそれからは徐々に柊羽の顔色も良くなり、問題なく安室の代役を果たしていた。
客足も途絶え始め日が暮れかけた頃、とある一行が来店した。
「梓お姉さん、こんにちは~!」
「あら、皆いらっしゃい!」
少年探偵団と、阿笠博士だ。
「あ、柊羽お姉さんもいるー!」
「ふふっ今日はお手伝いなんだ!皆は遊んできたの?」
「うん!東都水族館に行ってたんだ!」
「観覧車すごかったぜ!」
「凄かったのは元太くんですよ…」
一気に賑やかになった店内に、柊羽は思わず頬を弛めた。
挨拶もほどほどに、梓と柊羽は先程までの来客で溜まっていた洗い物をすることにした。
「柊羽さん、休んでていいですよ?」
「本当にもう大丈夫だよ。これくらいやらせて?」
「安室さんに怒られそうです…辛かったらちゃんと言ってくださいね!」
そんな他愛もない会話をしていると、誰かの携帯が鳴った。