第3章 縮む距離
柊羽は帰路の途中のスーパーに寄っていた。
スーパーは割と好きな場所だった。
何故なら女性客が多いし、レジ以外で人と関わることがないから。
(とは言え、いい加減不便だよね…逃げてばっかじゃダメなのは分かってるけど…)
『そんな顔、すんなよ』
『お前なら絶対、大丈夫だから』
いつもの、夢に見る声ではなくて、昔確かにここにあったそれが頭に響いた。
(約束したのに、できてない…)
懐かしい思い出に浸りたい気持ちと、有言実行できていない自分への情けなさとが交差して、気分が沈んだ。
(大丈夫とか、簡単に言うな、ばか)
挙げ句、八つ当たり。
どうやら今日はダメな日だ…と、自炊しようと考えていた買い物リストを取りやめ、お惣菜コーナーに向かった。
ダメな時はとことんダメになる、それが柊羽のやり方だった。
そういう訳でレジもちゃっかり女性スタッフの列を選び、会計を済ませた。
日がすっかり暮れていたので足早に去ろうとしていた時だった。
「あの、これ落としましたよ」
知らない男の声に、反射的に身を震わせた。
恐る恐る振り返り、手元を見るとレシートだった。
さっきレシートは捨てた気がするが、そんなやり取りさえもする気になれず、顔も見ずにお礼を言って受け取った。
(カイワレ大根?ワカメ…はぁ、やっぱり私のじゃないし。)
今日はついてない日だな、と思いながら、流石にまだ渡してきた人がいたら目の前でレシートを捨てるのは失礼かと考えるくらいの余裕はあり、無造作にポケットに突っ込んだ。