第3章 縮む距離
よほど集中していたのか、いつの間にか夕暮れ時になっていた。
(え、やばっ!もうこんな時間!冷蔵庫なんもないから買い物しなきゃだし帰らなきゃ)
柊羽は伝票を持ち、レジに向かう。
まるで見ていたかのように安室が厨房から顔を出した。
「お帰りですか?」
「はい、集中していたらいつの間にかこんな時間で…ご馳走様でした!今日も美味しかったです」
「それは良かったです。では話の続きはまた今度。すぐに暗くなりますから、気をつけて」
「はーい!梓ちゃんにもご馳走様と伝えてください。では!」
安室がレジにお金をしまっていると、梓が顔を出した。
「あれ?柊羽さん帰っちゃいました?挨拶しようと思ってたのに~」
「ご馳走様と言っていましたよ」
「呼んでくださいよ!」
「彼女、急いでいたようでしたので…すみません」
「なんか最近、安室さん柊羽さんのこと独り占めしてません?」
まるで小さな子が拗ねるかのように、梓はむぅっと口をとがらせている。
「すみません。本当に急いでらしたのでそんなつもりは…今度からはちゃんとお呼びしますね」
申し訳ないと思ったのは本心だが、柊羽と話すことが楽しいと思っていたのも事実だった。
(まぁ、僕の立場上、それ以上踏み込むことは出来ないし今はこの何てことない日常で十分、だな)
梓は、見たことのない安室の表情に思わず目を奪われた。
その切なげな表情は本心からか、それとも夕日がそうさせていたのか_____
そんな2人のやり取りはつゆ知らず…
柊羽は思い出していた。
(あぁっ!またアーモンドタルト食べるの忘れた…)