第3章 縮む距離
翌日、例によって柊羽はポアロにやってきた。
「あ!柊羽さん!おはようございます!」
「梓ちゃん、おはよう。やっぱり元気出るなぁ、その声」
真っ直ぐに、あなたのことが大好きです!と伝わってくるような梓の声が心地よくて、昨日の後味の悪さも吹っ飛んだ気がした。
「あれ?今日は安室さんは?」
「今日はお休みです!ていうか!柊羽さんまで~!最近安室さんばっかりでズルいです」
単なる疑問をぶつけただけのつもりだったが、どうやら梓の逆鱗に触れたらしい。
と同時に、こうして素直に不満を口に出せることが、とても羨ましく思えた。
「今日は私とお話してください!」
「ははっ、私も梓ちゃん不足だから、よろしくね。」
「えっ!柊羽さんからそんな言葉が聞けるなんて…!!」
「そんな喜ぶことじゃないでしょ?あ、そうだ、アーモンドタルトとカフェラテホットでください」
「朝からタルトでいいんですか?」
「うん、あの病み上がりの日からずーっと、食べたい!って思ってたのに何故か忘れちゃって。だから今日は忘れないように最初に頼むことにしたの」
「なんか、柊羽さんらしくないというか…でもそんなギャップもいいですけどね♡すぐにお持ちします!」
その日は梓の宣言通り、仕事の合間のブレイクタイムは2人で話に花を咲かせた。
と言っても、ほとんどが安室との関係への追求だったが。
何も無いと言っても彼女は追求の手を止める気配はなく、女の子はこの手の話好きだなあなんて他人事のように考えていた。
でもやっぱり嫌な気はしなくて、こんな平穏な日々がずっとずっと続いていけばいいとそっと願った。