第16章 純黒の悪夢
あれから、侵入者と夜の首都高で死闘とも言えるカーチェイスを繰り広げていると、突如現れたまた別の宿敵赤井秀一に横槍を入れられて逃走車は大破した。
騒ぎを聞きつけたにしては早すぎる赤井秀一の登場に疑念を抱きつつも、今はそれよりもあの女の消息を確認する方が先だ。
あの爆発の中、無事かどうかは怪しい。
万が一生きていたとしても相当な深手を負っているはずだから、捕らえるならすぐに追わなければ。
降谷はすぐさま公安の部下たちへ女の捜索を指示し、この緊急事態にポアロを急遽休ませてもらう連絡をした。
ほぅっと一息つき、天を仰ぐ。
「長い夜になりそうだな…」
もっとも、一晩でかたがつけばいいが…そう自嘲気味に心の中で呟いた。
*****
その翌朝。
真夜中の首都高での事故はニュースで報道されていた。
柊羽も朝食を摂りながら何気なくテレビから流れるその情報を耳にしてはいたが、まさか身近な人物が関わる事件とは梅雨知らず。
(こんな映画みたいなことって現実にあるんだなぁ)
などと呑気に考えていた。
それが彼女の日常に影響を及ぼすことは勿論なく、柊羽はいつも通りポアロへと向かうのだった。
「おはよう~」
「あ、柊羽さん!おはようございます!」
店内にはコーヒーの香りが漂い、梓がいつもの笑顔で迎え入れてくれた。
けれど一つ、気になることが。
「あれ、透さんは?」
昨日は探偵業で休みだと言っていたが、確か今日はポアロに出勤する日のはずだ。
「それが、急に休むって言われちゃって~!柊羽さん聞いてません?」
なにか見逃したかとスマホを確認してみたが、連絡は来ていない。
普段の安室なら何か理由をつけるなどして梓に心配をかけぬよう配慮するように思うが…
単に忘れたのか、それほど切羽詰まった状態なのか。
少し気になったので、柊羽は安否を問う連絡だけ入れておいた。
「特に聞いてないけど…代わりに私が手伝おうか?ホールならできると思うから。」
「えっいいんですか!安室さんが怒りそうだけど…ふふっ、お願いしちゃおうかなー?」
柊羽は梓のこういう素直なところが好きだった。