第16章 純黒の悪夢
侵入者らしき影を発見してから、降谷はすぐさま緊急招集をかけた。
こういう時に、ゼロという立場は有難いなと思う。
この立場を掴むためにしてきた血のにじむような努力も報われる気がするのだ。
それは総て「日本を守るため」にしてきた準備に過ぎないのだが。
緊急時のフォーメーションを組んで各々を持ち場につかせ、自分も侵入者の逃走経路の最後となるであろう場所に待機する。
「風見、こっちも大丈夫だ。」
『はっ』
一見冷静に指示を出しているようにも見えるが、降谷は珍しく内心焦っていた。
侵入されたのは、ノックリストが保管されている部屋。
それだけに厳重な警備がなされていたはずだが、それをかいくぐったということはなかなかの手練のはず。
そして十中八九、組織の人間もしくは関係のある人物だろう。
万が一逃げられでもしたら、日本どころか世界中がパニックになるような一大事だ。
自分の今までの努力も無に帰してしまう。
絶対に逃がさない。そう改めて心に誓ったところで、廊下の先が騒がしくなった。
どうやら部下たちの包囲網は次々に回潜られているようだ。
(ったく風見のやつ…後で説教だな)
勿論自分が無事だったら、だけれど。
物陰に潜みながら目を凝らすと、勢いよくこちらへ向かってくる人影が確認できた。
(…女?)
予想外のシルエットに気がとられそうになったが、動きを見る限り相当な実力の持ち主であることが分かったので性別を判断材料とすることはやめた。
女が近くまで来たところで肉弾戦を仕掛ける。
やはり只者ではない身のこなしで、なかなかダメージを与えるまで至らない。
何とか軽く一撃入れられたが、立ち回るうちに女を窓際へ追いやる形になった。すると…
「はっはっはっはっは!」
まるで勝負あり、とでも言うように高笑いをする女。
月明かりに照らされた瞳はは、オッドアイ。
「その目…まさか!!」
確証はない。
だが、いつだったか手に入れた組織のNo.2「ラム」の特徴に当てはまる。
無論相手はそんな問いに答えてくれるわけもなく、窓を突き破り外へと逃走を図った。
「くそっ!逃がすか!」
突然現れた大きすぎる敵に、少し目眩がした。