第16章 純黒の悪夢
今日は公安への登庁日。
トリプルフェイスのツケで溜まった公安の仕事をてきぱきと捌く。
(ポアロを削れば、少しは楽になるんだけどな…)
ぼんやりとそんなことを思いつつも、体力と精神を天秤にかければそれを実行する気にはどうしてもなれず。
それなら効率的に本職の業務をこなした方がいいなと思い至った。
いくら器量のいい降谷零と言えど物理的に多すぎる量にはそれなりの時間がかかり、気付けば夜も更けていた。
ふと周りを見渡せば、ドがつくほど真面目な部下が船を漕いでいる。
(ったく、上司の前で寝るヤツがあるか?)
「…風見」
「っ!かしこまりました!」
置いて帰るわけにもいかず声をかければ、訳の分からない返事とともにガバッと立ち上がったその男は、以前柊羽の病院の付き添いを頼んだ風見裕也だ。
「何をだ?ほら、僕はもう帰るぞ。このまま泊まるつもりか?」
「す、すみません…すぐ片付けます!」
風見は目にも止まらぬ早さで帰り支度を整え、執務室の施錠の準備にとりかかる。
「すみません降谷さん、お待たせしました」
「ん、お疲れ」
「自分はそんな…!降谷さんこそ、お疲れ様です!」
「上司の前で居眠りしていたやつに言われてもな?」
「そっ、それは…!すみませんでした…」
「ははっ潔いいな。いや、すまない冗談だよ。風見に余計な仕事を増やしているのは僕のせいでもあるだろ?」
「余計なんてことはありません!これが自分の"仕事"ですから。」
「そう言って貰えると助かる。だがデスクで居眠りしても体は休まらないぞ?余計疲れるだけだ。さっさと帰って家で休め。」
そんな他愛もない会話を繰り広げながら、2人は執務室をあとにしてエントランスへ向かっていた。
降谷も今日はまっすぐ帰って休もうと思っていた…のだが。
駐車場まで来たところでふと庁舎を見遣ると、ある部屋の窓がキラリと光ったように見えた。
(なんだ?自然光…っぽくはなかったな。あのあたりは確か…)
休息モードに入りかけていた脳を再び呼び起こし、考える。
「では自分もこれで。お疲れ様で…」
「風見すまない、ゆっくり寝るのはまた今度だ」
「え?降谷さんどうし…」
「侵入者がいるかもしれない。戻るぞ!」
「!…は、はい!」
それは、悪夢の始まりに過ぎない。