第16章 純黒の悪夢
その日安室は、ベルモットとの任務だった。
「さすが潜入捜査はお手の物ね、バーボン」
「お褒めに預かり光栄ですね」
「貴方の個人的な調べ物にも役に立ちそうね?」
「?…まあ、普段も喫茶店で似たようなことしてますから」
どうやらベルモットは何か探りを入れている、と安室は直感的に感じた。
「…まあいいけど、私には関係のないことだし」
「何が言いたいんです?」
「勝手な行動は控えた方がいいわよ。特に今はね」
結局核心に触れることはなく、指定の場所へベルモットを送り届けその日は別れた。
一人家路を運転しながら、先程のやりとりを反芻する。
確かにベルツリー急行の一件後、もうポアロの潜入は不要なのではないかと言われたことがあった。
だが自分がポアロに居続けることは組織にとってメリットこそないが逆を言えばデメリットだってないだろう。
シフトが組織の任務に支障をきたさないよう細心の注意も払っている。
安室透は本来の姿ではないけれど、今やすっかり板についてしまった。
それは、降谷零やバーボンの時には常に気を張っていなければならない彼にとって心のオアシスとなりつつあったのだ。
更にいえば、ポアロなら柊羽とも堂々と逢瀬を楽しむことができる。
(ポアロを辞められないのは、僕の弱さだ。)
だがそのせいで組織から疑いの目を向けられてしまっては意味がない。
梓やコナン、そして柊羽にまで危害が及ぶようならば、辞めることも視野に入れなければならないだろう。
(もう、大切な人を失うのはごめんだからな…でもその時は梓さんのお説教は必至だな)
そんなことを思っては頬を弛めてしまう自分は、やっぱり平和ボケしているのかもしれないと思った。