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透明な約束【名探偵コナン/安室】

第15章 純黒への序章


「あ…えと…すみませんでした!」

「いや、役得だ」

冷静さを取り戻した柊羽に襲いかかる羞恥心。
思わず少し距離をとって謝れば、不敵な笑みを浮かべた安室が目に入った。

(なんだったのかな…記憶?)

先程の不可解な現象に思考を巡らせていると、ガサゴソと言う音に意識が引き戻された。


「あ、ごめんなさい…」

「僕としたことが取り乱した」


先程駆け寄ってくれた時に咄嗟に手放した荷物が散らばっていたのを安室が拾っていたところだった。
柊羽も手伝おうと手を伸ばす。
と、偶然拾ったある物に思わず手が止まる。



「…バーボン」

「っ!?」



手元の瓶のラベルを口に出して読む柊羽に意表をつかれて安室の心拍数が一気に上昇した。
だがあくまでも冷静を装って振る舞う。



「ウィスキーが、どうかしたのか?」

「え?あ、いや…なんだろう?無意識で…ウィスキーなんて飲まないのに。これもポアロで使うんですか?」

「あぁ。…隠し味にね。」




そんなやり取りをすれば柊羽はもうその酒瓶への違和感は拭えたらしく、袋に詰めていた。

安室はと言うと、柊羽が記憶を取り戻すのもそう遠い未来の話じゃなさそうだなと考えていた。

そしたら彼女は泣くだろうか?

ベルモットと遭遇した時のあの態度、また謝らないとな。

そして今度こそ、伝えられればいい。

___本当の、気持ちを。




「ふぅ。拾い終わりましたね」

「すまないな、手伝ってもらって」

「いえ!元はと言えば私が…」

「そんなことは気にするな。役得だと言ったろ?ほら、行くぞ」


安室はそう言って荷物を全部抱えて歩き出した。


「あれ?荷物…あ、透さん!ひとつ持ちますって!」


後ろから聞こえてくる柊羽の声に、悪戯心をくすぐられる。


「これくらい持てるさ。手、繋ぎたいなら別だけど?」


そう、袋を一つだけ持っている方の手を少し上げてみせれば、やはり柊羽の頬が赤く染まり。


「そ、そういう訳じゃ!」

「なんだ、残念」


含みのある返しをすると、今度はポカンとする柊羽。


「何してる、置いてくぞ」


そんなことするつもりは微塵もないが。


「あ、待って!」


そうやってずっと、ついて来て欲しいと願った。
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