第15章 純黒への序章
買い出しからの帰り道、相変わらず一定距離を保って着いてくる気配に安室は苛立ちを覚え始めていた。
「柊羽、荷物貸して」
「え?で、でも…」
それじゃあ自分が来た意味が…と柊羽は躊躇った。
「つけられてる。少し走れるか?」
「!!」
なるべく知らせたくなかったが、納得させるには仕方がないか…と打ち明ける。
すると柊羽は素直に従い、空いた手で安室のシャツの裾をキュッと握った。
安室はそれが嬉しくもあったが、怯えさせてしまったことが邪魔をして素直に喜べなかった。
「あのコンビニまで、行けるか?その先にポアロまでの抜け道があるんだ」
柊羽がコクリと頷くのを確認し、2人は走り出す。
安室の裾を握りながら必死で後に続く柊羽。
すると脳内にちらちらと映像が浮かんできて、目の前の映像とオーバーラップする。
(な、なに…?)
走っていることで上気する呼吸とはまた別の息苦しさも込み上げてきて。
頭がズキリと痛む。
何とか堪えコンビニまで辿り着き、路地に入って身を潜める2人。
はあ、はあ、と呼吸を整える柊羽とは裏腹に安室は顔色一つ変えずに今来た道を影から見つめていた。
(なんだろ、苦し…)
「撒けたみたい…柊羽?」
ほっと胸を撫で下ろし振り向くと同時に、柊羽が耐えきれずに膝をつくところだった。
「おい、どうした!?」
思わず荷物を放り投げ駆け寄ると、柊羽は自分で自分を抱きしめるような形でカタカタと震えていた。
「わ、かんな…っ、けど、止まらなくてっ…」
(記憶がなくても、身体が覚えている…のか?)
安室はできる限り優しく、柊羽を抱き寄せた。
「大丈夫。大丈夫だから。僕がついてる。」
混乱する柊羽にも届くように、はっきりとそう口にした。
『もう大丈夫だ』
すると柊羽の脳内に、同じような台詞が響き不思議と震えが収まっていく。
自身を抱き締めていた腕を解いて、それを安室の背中に回す。
「!」
「ごめんなさい、ちょっとだけ…」
もう、恐怖はどこかへいっていた。