第15章 純黒への序章
後日、性懲りも無く再びポアロに現れた例の怪しい男。
危害を加えられる様子がないとはいえ、つけられるというのはいい気分ではない。
そう思った安室は今日こそはと思い、ほかの客がいないタイミングで近寄った。
「すみません」
そう声をかければ、あからさまに男がビクッと反応した。
「僕に、何か御用ですか?」
丁寧な言葉遣いではあるが、普段は感じられないどこか威圧的な雰囲気に思わず男は息を飲む。
「あ、いや…」
「そういえば、この間のデートも邪魔されちゃいましたし…」
しゅん、と眉尻を下げる安室に、その場にいて成り行きを見守っていた梓と柊羽は「そこ!?」と心の中でツッコんだ。
「何が目的だ?一体何者…」
安室の纏う雰囲気が一瞬変わったその時、店のドアが開く。
「パン屋のおじさん!」
全員の視線の先に現れたのは少年探偵団。
そしてコナンの言うパン屋とは…消去法でこの怪しい男のことだろうか。
「…パン屋?」
そう言って男を見遣れば、冷や汗をダラダラと流していた。
問い詰めてみると、コナンの言う通りその男はパン屋で、安室の作るサンドイッチに心奪われ、少しでも作り方のヒントが欲しいと探りを入れていたらしい。
「はぁ…だからってこんな真似」
「す、すまなかった…」
「まあ僕はいいとしても、この間彼女を怯えさせたのは感心しませんね」
突然話題に上がったことに、柊羽は驚いた。
「そうだな…申し訳ない。」
深々と頭を下げられ、柊羽もつられて立ち上がる。
「そんな!頭上げてください!もういいですから!」
「しかし…」
「透さ…あ、安室さんのサンドイッチ私も大好きですから気持ちは分かります!」
今度はその場にいた全員が「そこ!?」と少しズレた論点の柊羽にツッコむ番だった。
「はは、本当に君は…。まあ、柊羽さんがいいなら僕はもう何も言いません。」
かくして、安室透のストーカー事件は幕を閉じたのであった。