第15章 純黒への序章
結局、梓がわざと1人では持ちきれないような量の材料を提示して買い出しに2人で行くことになった。
(無理をすれば持ちきれない量ではないが…ここは素直に梓さんに感謝するとするか。)
現状、ストレートにデートに誘うのはどうかと思っていた安室は、買い出しという大義名分を掲げ柊羽と外出できることに感謝していた。
「すみません、付き合わせてしまって」
「いえ!業務用スーパーってワクワクしませんか?一人暮らしじゃ来ることないし、むしろラッキーです」
一応、形式上謝ってはみたが、そうだ彼女はこういう娘だったなと改めて思わされる結果となった。
目的地へ着くと、柊羽はルンルンで業務用スーパー特有の大きなカートを率先して取りに行き、「さ!行きましょ!」とまるで遊園地に入場する子供のようなきらきらとした笑顔を見せた。
(悪くないな、こんな時間も…)
そう、穏やかな時を噛みしめていたが、安室はある気配に気付き神経を研ぎ澄ませる。
(…またあの男か)
やはり今回も殺意のようなものは感じられないが、折角の2人の時間を邪魔されるのは面白くない。
業務用スーパーを堪能したい柊羽には申し訳ないがさっさと買い物を済ませて撒こうと、安室はテキパキと目的のものを探した。
「こんなところですかね」
「えー、もう終わりですか?なんか全然探検した気がしない…」
「すみません、つい…一応まだ勤務中ですし、早く帰らないとと思ってしまって」
「それもそうですね!私、自分のことしか考えてなかった…」
案の定残念がっている柊羽にそれっぽい言い訳をすれば、優しい彼女は納得どころか自分を責め始めて。
「ふふっ、また今度、次は時間がある時に付き合ってください」
「是非っ!」
代替案を提示すれば、今度は帰ってきた主人を迎える仔犬のように喜び、心做しか耳としっぽが見えた気がした。
そんな柊羽の頭を軽くポンポンっと叩き、行きましょうと声をかける。
「…っもう!私子どもじゃないですよ~」
照れながら後をついてくる柊羽に、子どもじゃなくて仔犬のつもりだったけどな…と思うと自然と笑みがこぼれた。