第15章 純黒への序章
「なんだぁ…結局私の為、ってことですね」
はぁーと溜息をつき俯く柊羽の顔は見えない。
人の…仕事の相手でもないただの異性の顔色を伺うなんて自分らしくない。
こんな気持ちいつぶりだろうな、と安室はこの場にそぐわぬ思考を巡らせていた。
「幻滅、しました?」
「はい」
自分で聞いたものの、間髪入れずに答えた柊羽に思いの外ダメージを受けた。
「すみませんでした、自分勝手でしたよね」
「あ、違いますよ!!自分に、です!」
「柊羽さんに?柊羽さんが?」
「はい。透さんはいつも私のこと考えてくれてるのに、少しでも疑った自分に!幻滅しました」
(ああ、本当に___)
「柊羽さんにはいつも驚かされますよ」
自分の想像なんて遥かに越えていく。
きっと自分のこんなワガママも、笑って受け入れてくれるんだろう。
「辛いことを思い出させるのはやっぱり気乗りはしませんが、僕の…僕たちのことは早く思い出して欲しい、かな。」
「うぇ…えと…が、頑張ります…!」
予想は少し外れて、笑ってでは無かったが、やはり照れながらも受け入れてくれる柊羽に安室はほっと胸を撫で下ろした。
「あ、そういえば…」
ふと、思い出したように柊羽が言う。
「この前の…怪しい人?さっきもいませんでした?」
「ああ…そういえばいましたね。」
本当はハッキリと認識していたが、なんとなく興味のない素振りで答えてしまった。
「本当に大丈夫なんですか?」
そう問う彼女は、心の底から心配しています、という表情で。
なんだかそれだけで満たされた気すらしてしまう。
(僕もたいがいに重症かもな)
「ふふ、さっきコナンくんにも釘を刺されました」
「コナンくん、わざわざそんなこと言いに来たんですか」
一体何者?と、小学生とは思えぬ洞察力に、柊羽の思考は傾きかける。
「何かあるとは思えませんが…ちゃんと気をつけますね」
柊羽に心配はかけまいと、安室はそう誓った。
「あ、安室さーん!ちょっと買い出しお願いできますかー?」
カウンターの奥から響く梓の元気な声に、すっかり話し込んでしまった…と、2人して顔を見合わせる柊羽と安室であった。