第15章 純黒への序章
また別の日、コナンがポアロの前を通ると再びあの怪しげな男が店内にいるのが見えた。
コナンは警戒しながら安室に接触する。
「安室さん、あの人…ホントに知らないの?」
「ん?…あぁ、何日か前買い出しの時につけられたけど…」
その衝撃の発表にコナンの顔は険しくなるが、対照的に安室は飄々としている。
「…で?」
「ん?」
「そ、それだけ?」
「そうだけど…何か?」
危機感ゼロの安室に、コナンは段々とフラストレーションが溜まるのを感じていた。
「組織の…人間とかさ」
「あんな男はいないと思うけど」
「でも沢山いるんでしょ?安室さんが知らないだけじゃ…」
「んー、彼からそんな感じはしないけどな」
食い下がってみたが、どうやら本気で安室は相手にするつもりがないらしい。
本人がその気なら放っておいてもいいのだが、気づいた謎は解きたいと思う探偵の性に逆らうことが出来ず、勝手に調査することに。
(少年探偵団もその気になっちまったしな…)
と、ポアロから出ていった男の後をつけていくコナンたちであった。
「あれ?コナンくん行っちゃったんですか?」
「ええ。友達と遊ぶそうですよ」
「元気で何より!」
コナンと安室のやりとりを遠くから見ていた柊羽。
なぜこっちに来ないんだろうと思ったが、安室の言葉に納得をした。
「あ、そういえば…」
「ん?」
「透さん、私に隠し事してますか?」
「え…何故そう思うんです?」
本当に自分は狡いなと思いながら、安室は質問に質問で返した。
柊羽が何故突然そんなことを聞いてきたかは分からないが、なにか思い出したのだとすれば返答を間違えるわけにはいかないのだ。
「え?うーん…なんか、うまく説明できないんですけど、私に記憶が戻らなくて安心してるように見えて…」
なるほど、そういう事か。
どうやらまだ何も思い出してはいないようだ。であれば…
「そういう事ですか。すみません、不安にさせて。それは…ちょっと当たってます、ね。失くなった記憶の中で柊羽さんが辛い思いをした時期も知っていますから。そこだけでも本当に忘れられたら…って思ってます。ふふ、酷い男でしょう?」
と、核心には触れず曖昧にしたまま、安室はおどけて見せた。