第14章 緋色の真実
その不思議な感覚に戸惑っていると、柊羽のスマホが震えた。
「ん?…新ちゃん?え~来れなくなったって!」
その報せに、分かりやすく肩を落とす柊羽に沖矢はクスッと笑みを浮かべた。
「もう~折角高校生の姿楽しみにしてたのに…」
柊羽はブツブツと文句を垂れながら口を尖らせている。
(闇を知らない彼女は、こんなにも無邪気なのだな…)
沖矢はそんな柊羽の姿を、なんとも言えない気持ちでただ見つめることしか出来なかった。
「新ちゃん来ないなら、今日はもう帰ろうかな」
「おや?私では役不足ですか?」
「そっ、そういう事じゃなくて!なんだか沖矢さんといると調子が狂います…」
「以前にもそんなことを言われた気がします」
「じゃあ変わってないってことですね。沖矢さんも…私も」
特に意図したことではなかったが、このやり取りで柊羽が少し安堵したように見えた。
記憶がなくても関係は変わっていないということが嬉しかったのだろう。
「仕事のこと、ありがとうございました。」
「どういたしまして。良ければ当面の間はここで仕事をしてはどうですか?」
「え…でも」
「遠慮はいりません。何せここの家主から、貴女のことはくれぐれも頼むと言われていますから。」
「優作さん…?」
「ええ。娘同然だからと心配していました。それにここにいれば工藤新一君にもすぐに会えるのでは?」
この人は駆け引きが上手いなと柊羽は思った。
優作がそこまで自分を気にかけてくれているのは本当に嬉しいし、沖矢の言う通り新一に早く会いたい。
「じゃぁ、ちょっとだけ…」
「それならその間はここにパソコンは置いておいて構いませんよ。いちいち持ち運ぶのは大変でしょうし、家では仕事のことは忘れてゆっくりした方がいいでしょう」
「で、ですね…」
考えることを諦めた柊羽は、沖矢の言うことに従うことにした。
「じゃあ今日のところはこれで」
「あ、送りますよ。ちょうど私もこれから出かけるところでして」
矢張り選択肢を与えるつもりのない沖矢に、戸惑いつつも心強い味方だということはよーく理解出来た一日となった。