第14章 緋色の真実
その日の夜、柊羽の電話が鳴った。
「あ、新ちゃん?」
『おぉー柊羽姉、大丈夫だったか?』
その相手は新一だった。
コナンのことは覚えていないだろうと踏んで、声も変えている。
「なんか私、記憶喪失みたい」
『は?』
あっけらかんとしてそう告げる柊羽に思わず出た一言。
安室から状況は聞かされていたものの、本人から聞くのは初めてになるのだからと、驚き方が不自然にならないようシミュレーションしていたというのに。
自分の予想に反して、柊羽はさほど落ち込んではいないようだと新一は思っていた。
「いやーだから、覚えてないの!昨日のことも、何年か前までのことも」
『そういう事じゃなくて!いやそれも重要だけど。不安…じゃないのか?』
「え?なに~新ちゃんてば、高校生になって益々心配性になったんじゃない?」
『なっ…!俺はオメーのことを思ってだなぁ!』
「分かってるよ!ふふ、ありがとう」
『はあ…』
ホントに分かってんのか、という気持ちを込めて盛大にため息をついた。
「記憶がなくても皆が優しいから、平気だよ」
『そうかよ』
「それよりさ!早く新ちゃんに会いたいんだけど」
『げっ』
「なにその反応!別に見慣れてたんだろうからいいじゃん!今の私は高校生の新ちゃんを知らないから見てみたいんだもん。」
『俺は見せもんじゃねーぞ』
「イイ男になってるんだろうなぁ」
『人の話を聞けって』
叶わぬ願いを口にする従姉妹に、どうしたもんかとコナンは項垂れた。
まさかこんなお願いの為に白乾児を飲む訳にはいかないし、灰原に薬を貰おうにも「そんなその場凌ぎのために飲むものじゃない」と一掃されるのがオチだろう。
ここはなんとか、柊羽の記憶がない間は何も知らないままでいさせたい。
記憶が戻れば、また黒い闇と向き合わなければならないから。
せめて今だけは…と、それはコナンなりの優しさだった。
『あ、そうだ』
「ん?」
『明日はどうだ?俺ん家来れるか?』
「えっ早速!やったー!行く行く!」
新一に会うことは出来ないのだが、勘違いした柊羽は二つ返事でOKした。
そんな様子に、コナンの良心がチクリと痛むのだった。