第14章 緋色の真実
安室は、不敵な笑みを浮かべていた。
「君は少々僕のことを誤解しているようだ。」
突然身にまとった黒の組織としてのオーラに、コナンは背中に汗が伝うのを感じていた。
「でも…」
その時には既に、いつもの安室透だった。
驚くべき切り替えの速さに今度は感心せざるを得なかった。
「この間言ったことは嘘じゃない。」
それは恐らく、柊羽に危害を加えるつもりは無いということだろう。
もう伝えたいことが済んだのか、安室はそう言うと今度は探偵モードに切り替えて推理ショーを始めるのだった。
(ほんと、恐ろしいな。)
どうか敵ではありませんように、とコナンは一縷の望みに縋る思いだった。
***
一方柊羽も、混み合う総合病院での診察を漸く終えたところだった。
「すみません風見さん、一日無駄にさせちゃいそうで…」
「いえ、気にしないでください。今日はそのつもりで来てますし何ならこんなにゆっくり出来たのは久しぶりで。感謝しているくらいです。」
「…優しいなあ、風見さんも」
そう言う柊羽は、無理して笑っているように見えた。
「それで…診断は?」
「やっぱり、記憶が抜けちゃってるみたいで。多分ここ5年くらいの…。日常生活に支障はなさそうだから、定期的な通院で大丈夫だろうって。」
「そう、ですか…」
「こうなった原因が分かれば、思い出す手立てが見つかるかもって言われたんですけど…風見さん何か知ってます?」
「いえ、自分は何も…」
「ですよねー。」
柊羽は、後で新ちゃんにも聞いてみようと一旦自己完結させた。
「じゃあ帰りましょうか。ふ…安室…にも一応連絡入れてくるから、ロビーで待っていてください。」
「はーい」
柊羽は言われた通りロビーに向かう。
こちらにも人は多く、避けながら歩いていたつもりがトンとぶつかってしまった。
「すみませ…」
「あら?あなた…」
咄嗟に謝ろうとすると、顔をじーっと見つめてくるその女性。
自分を知っていそうな様子に、柊羽はまた"忘れてしまった人"なのか?と罪悪感に襲われた。
「えーと…」
「あぁ、ごめんなさい。人違いだったみたい。」
どうやらそんな心配は杞憂に終わったようで、柊羽はホッと胸をなでおろした