第14章 緋色の真実
「それじゃ頼んだぞ、風見」
「はっ…お、おう」
当たり障りのない挨拶を済ませると、余程忙しいのか安室は出て行った。
同じ屋根の下に先程知り合ったばかりの男女で二人きりというのも気まずいので、柊羽たちもすぐに病院へ行くことにした。
「あっ。知人に連絡入れるので、ちょっと待っててもらえますか?」
そう言って柊羽は指示通り新一に『おはよう。来てくれてありがとう。頭が痛むので病院に行ってきます。』とメールを入れた。
新一のことは覚えているし、記憶についてはまあいいか…と敢えてメールでは触れなかった。
「終わりましたか?」
「はい!宜しくお願いします。」
心做しか、先程までより雰囲気が柔らかくなったような感じがする風見。
緊張が解けたのかなと柊羽は考えていた。
病院への道すがら、何を話そうかと考えた末に辿り着いたのは共通の知人についての話題だった。
「風見さんは透さんのお友達で…私と会うのは初めてなんですよね?」
「ええ、そうです。よく話は聞かされていましたが。」
「それってどんな?」
「話題を挙げたらキリがないが…総じて君が大事だ、といつも言っている。」
「そ、そうなんですか…」
ただの興味本位だったが、聞かなければよかった…と柊羽は数秒前の自分の発言を早速後悔し赤くなる頬を鎮めようと必死だった。
「でも…尚更申し訳ないなぁ。」
「忘れてしまったことが?」
「はい。私なら…寂しくなっちゃうと思います。」
「あまり思い詰めると良くないですよ。」
「透さんにも、言われちゃいました。」
柊羽があまりにも切なく笑うので、風見は胸が締め付けられた。
彼女の喪われた記憶の中には、忘れてしまった方が良いものだってある。思い出しても辛いだけかもしれない。
けれど忘れたことに気が付いてしまった以上、思い出したいと願うのは自然の摂理だろう。
(降谷さん、自分は、どうすれば…)
生憎女性の扱いには慣れているとは言えない風見は、なんと言葉をかけたらいいのか分からなかった。
かと言って、言葉ではなくボディーランゲージで慰めようものなら、万が一バレた時に鬼上司からの鉄拳は必須。
風見は自分の不甲斐なさに天を仰ぐことしか出来なかった。