第14章 緋色の真実
「ちっ、ンだよ…興醒めだ」
男はそう吐き捨て、小走りで逃げるように去っていった。
取り残された柊羽は、ただその苦しみに悶えることしかできずにいた。
冷静になりたいのに、首筋に残る身の毛もよだつような感覚に神経が支配されてしまう。
(だれか…っ新一…)
朦朧とする意識の中、なんとか探偵バッジを起動させようと鞄に手を伸ばしたところで、どこか焦ったような足音とともに人の気配を感じた。
その人物はそのまま柊羽に近づき抱きかかえた。
(とーる、さん…?)
そうだったらいいなと僅かな期待を抱いてみるものの、生理的に溢れた涙で相手の顔は確認できなかった。
そして有無を言わさず口を塞がれた。
誰だか分からなければ、また襲われないとも言いきれない状況の中、何故か不思議と抵抗する気にならなかった。
漸く呼吸も落ち着き、ぼんやりと相手の輪郭が見える。
「もう大丈夫ですよ」
あの、夢のような、透さんのような言葉を紡いだのは。
「ど、して…」
「危ない時は助けると約束したでしょう?」
沖矢だった。
柊羽はその事実を確認するや否や、意識を手放した。
そこへ一足遅れてコナンが到着する。
「昴さん!!いた!?」
「ええ。意識を失ってしまいましたが、外傷はなさそうですよ。」
「よかった…」
「君が気づいてくれて良かった。」
「うん…ポアロにいなかったから探偵バッジの発信機を探ってみたんだ。呼んでも反応無いし動きがおかしかったから。」
「流石だね、小さな名探偵くん。」
「昴さんこそ、こんなに早く来てくれると思わなかったよ」
「気まぐれですよ。それより安全なところへ。目が覚めた時に私がいたら驚かせそうですし…自宅に連れていきますか」
「それがいいかも。一人も不安かもしれないから、僕がついてるよ。」
「それなら安心だ。じゃあ、行きましょうか。」
2人は柊羽を連れ近くに停めてあった沖矢の車に乗り込み、自宅へ向けて発進した。
先程までいた場所から、それを見つめる人影がひとつ。
「ちっ、間に合わなかったか…」
その人物はそう呟き、踵を返した。