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透明な約束【名探偵コナン/安室】

第14章 緋色の真実


翌日、柊羽は気晴らしに散歩をしていた。

なんとなく、ポアロには行きづらくて。



あれからなんだか気が重い。

あの女の人が誰であれ、自分には咎める権利などない。

彼がどこで何をしていようと、干渉できる立場ではないのだから。

ただ聞き分け良く待っているのが今自分にできること。

都合のいい女と言われようが我慢できた。それは自分で決めたことだから。



なのに、こんなに気をもんでいるのは恐らく劣等感。

助手席にいた人はハーフか外国人のようなキラキラとした美女で。

…敵わないと、思った。



安室に引く手が数多ということは分かっていたはずなのに。

『恋人』という繋がりがなくても満足なんて、綺麗事だったと思い知らされた。

すれ違う本物の恋人達の姿が、柊羽の劣等感をひどく助長させるのだった。



(気晴らしのはずが…散歩も失敗だったかなあ)



負の連鎖。

こうなったらきっと何事も上手くいかない、そう思った時。



(…ほらね。神様の、いじわる。)



1歩先の路地から出てきた美男美女。

それはまさに、思考を支配していて今一番会いたくない2人だった。



「と、る…さん」



声をかけるつもりはなかった。声が漏れた、そんな感じだった。

それに反応を示したのはその名の持ち主ではなく女の方で。



「貴方のこと知っているみたいよ。」

「…さあ?相手をした女性のことはいちいち覚えていませんから。」

「ふふっ、冷たいのね。じゃあね、子猫ちゃん。」






それはまるで頭を鈍器で殴られたような衝撃で。

なんだ、今のは。

あれは誰だ?

見たこともないくらい、冷ややかな目をしていた。



演技かもしれない。けれど今の柊羽には、その真意を汲み取る余裕などなかった。



しばらく腰に手を回し仲睦まじく歩く2人の後ろ姿をぼんやりと見つめていたが、見えなくなったと同時にフラフラと宛もなく歩き出す。



(さすがに、きっついなぁ…)



沖矢の忠告が今になって身に染みて、罪悪感も柊羽の心を支配し始めた。

よく前を見ておらず、人にぶつかってしまった。





「痛ってぇな。どこに目ぇつけてんだ?」





(あぁもう、ホントにツイてない…)
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