第13章 付かず離れず
「ズルいなぁ、透さんは。私が透さんのお願い断れるわけないじゃないですか!」
「柊羽…」
柊羽が無理をして明るく振舞っているのは一目瞭然で、安室は良心がキリキリと痛むのを感じた。
「でも、あんまり待たせるとどこか行っちゃいますからね?女心と秋の空、ですよ」
「僕の知る柊羽はそんな事しないさ」
「!!」
自分は本当の安室透を知らないのに、相手には自分の心が見透かされている。
心変わりしない自信はあるけれど、それを今認めるのはなんだか悔しくて。
もう少しで届きそうなのに、届かない。
そんな距離がどうにももどかしい。
このまま足踏みをするくらいなら、前にでも後ろにでも進んだ方がいい。
当たって砕けろ。
そう思った。
「ほんと…ズルいです。私の気持ちくらい、伝えさせてくれてもいいじゃないですか…っ!別に受け入れてくれなくてもいい、なんならこの関係もっ」
続けようとした言葉は、安室の胸に飲み込まれた。
安室が柊羽の頭を引き寄せ強く抱き締めたのだ。
「それ以上は…許さない」
なぜ。
言わせてもくれないんだろう。
何が彼にそうさせているんだろう。
こんな生殺しのような気分なら、いっそ突き放してくれた方が楽かもしれないとさえ思う。
「酷いことを言ってるのは分かってる。見損なったと思われても、仕方がない。でもこれだけは言わせてくれ。」
抑えられていた頭が解放され、視線が絡み合う。
柊羽は今にも零れそうな涙を堪えるので必死だ。
「僕が与えられてばかりって訳じゃない。今日だってそうだし、ポアロで柊羽と話す時間も心が安らぐんだ。その時だけは、柊羽と話すことだけを純粋に楽しめる。柊羽は実感がないかもしれないけど、今でも充分支えになってくれてるんだ。」
この人は本当にズルい。
そんなこと、そんな顔で言われたら、責められる訳がない。
そう思うとやるせなくて、堪えていた涙がつ、と頬を伝う。
柊羽はそれを隠すように今度は自ら顔を安室の胸に填めて胸元をきゅっと掴んだ。
それを宥めるようにトン、トンと頭を撫でてくれる優しさにまた胸が締め付けられた。
少しの間そうしていると、突然安室の口が開かれる。
「赤井、秀一…」