第13章 付かず離れず
安室も柊羽も、この薄い紙きれが沈むのに15分も掛かるはずがないとたかを括っていたが、意外や意外5分経っても沈む気配がちっともない。
「意外としぶといですね…」
と、柊羽は正直に感想を述べた。
と同時に、今かもしれないとも思った。
安室に、事実ではなく真実を聞く、その時が。
(迷わず進め、って出たしな…)
膝の上に置いていた両手をぎゅ、と握りしめた。
その僅かな変化と柊羽から溢れ出る緊張感に安室が気づき、ちらりとその発信源を見た。
「柊羽?大丈夫ですか?」
「大丈夫です。たった今神様が背中を押してくれました。」
(陣平さんにも、私は大丈夫だよって伝えなきゃ)
「透さん」
先程とは打って変わって、真っ直ぐな瞳を向ける。
「透さんの抱えてるもの…私じゃ軽くできませんか?」
そう言うと、安室が息を飲んだのが分かった。
あれほどシミュレーションしたというのに、あろうことか隠し事をしている前提で話し出してしまったが、もう、あとには戻れない。
「私は、透さんにとっても助けられてます。男の人が怖いのも、いつかは時間が解決したかもしれないけど、今、ちょっと前に進めたのは紛れもなく透さんのおかげだし。付き合うフリでもこうやって思い出が作れるのはすごく…嬉しい。今日とっても楽しいんです。」
「それは、僕も同じです。」
「良かった。えっと…だから、貰ってばっかりはやだなって。何かしてあげたくて…余計なお世話かもしれないけど!それに透さんは恋人のフリのつもりかもしれませんけど、私はっ」
感情が昂って勢いでしそうになった本人も予想外の告白は、安室が柊羽の手を引いたことで遮られた。
突然のことで柊羽は受身を取れず、安室の腕の中にすっぽりと収まっている。
「と、透さん!?」
「悪い、その先はまだ…」
いつだったか聞いた、"安室透"よりもトーンの下がった声と敬語ではない口調。
やっぱりこれが本当の彼の姿なのだと柊羽は確信した。
「貴方は、誰?」
「っ…すまない、それもまだ言う時じゃない。」
「…そっか」
「調子いい事言ってるのは分かってる。でも、もう少し…待っててくれるか?」
安室は頬に張り付いた柊羽の髪を優しく梳いた。