第13章 付かず離れず
「柊羽さん、着物も似合いますね」
「透さんこそ…!」
予想通り、いや予想以上の着こなしっぷりだ。
店内で着替えている間は男女の着付けスペースの間についたてがあり終わるまで見ることが出来なかった。
安室を担当していた女性スタッフたちの「お兄さんいい男!」「似合うわぁ~」といった声にほんの少しだけ気分が降下していたが、これからの時間を思うとワクワクしてきた。
「じゃ、行きますか」
今度は彼の方から自然と差し出された手。
柊羽はハニカミながらも嬉しそうに握り返す。
「すごい恥ずかしいけど、なんか着物のお陰でイベント感が出て吹っ切れました」
「じゃあ尚更着てよかったですね」
それに頷くのは自分の下心を認めてしまうようで、また適当に作り笑顔ではぐらかしてしまう。
「わぁ!素敵なお店がいっぱいありますね!」
今二人がいるのは所謂メインストリートで、歩行者天国になっている通りに面したお店は観光客向けのお土産屋が所狭しと並んでいる。
「時間はたっぷりありますし、気になったお店はとりあえず入ってみましょうか」
「透さんも遠慮なく言ってくださいね!私こういうの初めてで止まらなくなりそう…」
柊羽の言葉に安室は疑問を抱いた。
「前の彼とは、こういうことは?」
「刑事さんはなかなか不規則で…その頃は私もまだ全然立ち直れてなかったっていうのもあって、デートといえば二人で家で過ごすかトレーニングか、って感じで。その前の彼はお互い学生で遠出はしなかったなぁ~。」
「では、今日はその分までうんと楽しみましょう」
やっぱり、安室は欲しい言葉をくれるんだなと柊羽は思った。
安室なら過去のことを掘り返すようなことはせず、これからのことに希望がもてるような返しをしてくれるという根拠の無い自信があって。
だからこそ、安室は敵ではないという自分の予想が外れているとは思えなかった。
柊羽は安室の言葉通り、思う存分メインストリートを満喫した。
和柄の小物を扱う雑貨屋を見てみたり、特産品を試食したり変わり種のソフトクリームを食べ歩きしたり。
本当に心から、楽しむことが出来た。