第13章 付かず離れず
小一時間車を走らせたどり着いたのは都会に近いのに小江戸感が楽しめるという触れ込みの町だった。
「着きましたよ」
「わ、あ…!素敵ですね!初めて来ました」
柊羽は早く散策がしたくて、感想もそこそこに歩き出す。
それに合わせて安室も歩いてくれている。
「いいリアクションで安心しました」
「これはまったく予想できなかったなぁ」
「意外ですか?」
「そう、ですね…なんか透さんは最先端の映えスポットとか連れてってくれそうで」
「それは喜ぶところでしょうか?」
「ギャップ萌えって言葉もありますし。こういう所好きなんですか?」
「ええ。古き良き日本、って感じがして。実は僕も初めてなんですけど、ずっと来てみたかったんです」
「それは良かった!どこか行ってみたいところは?あるなら行きましょ!」
「そうですね…」
安室は事前にリサーチした情報を思い出していた。
すると何かに気付く柊羽。
「ねぇ、あれ!」
指さした先には"着物レンタル"の看板が。
そう言えば先程から着物姿の観光客をちらほらと見かけるのはこういうことか、と安室は納得した。
柊羽はというと、自分も着てみたいし、安室の着物姿が見てみたかった。
ダメもとでお願いしてみよう。と思っていると…
「やりましょうか」
「へ?」
まさか、ご本人直々に言っていただけるとは。
願ってもない申し出に思わず間抜けな声が出てしまう。
「行きたいって、顔に書いてありますよ?」
ポカンとしていれば、「ほら、」と着いてくるよう促された。
一瞬の事だったが、安室が手を繋ごうとしたのが分かった。
けれど以前手を引かれてパニックを起こしたことをきっと思い出してやめてくれたんだろうな、と柊羽はすぐに理解した。
(ほんと、何でも覚えてくれてて…期待しちゃうな)
それが何だか悔しくて。
早歩きで、先を歩く安室との距離を詰めて自分からその手を取った。
我ながら大胆なことしたな、と少し恥ずかしかったけれど。
驚く彼の顔を見たら、そんなことどうでも良くなって。
「行きましょ!」
柊羽は顔に集中する熱に気づかれないよう前を向いた。
「はぁ…人が必死で抑えてるっていうのに」
「何か言いました?」
「なにも?」
安室はぎゅ、と手を強く握り返した。