【安室透】奇妙な客人がやって来るのは、この霊感のせい?
第1章 奇妙な依頼人【出会い】
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「え、ええ!?安室さんの目の前で自殺!?」
『ちょっ、声がデカい!安室…さんにバレるだろ!』
「それは本当なんですか!?」
話を聞いた私は途端にヒロミツさんの肩を掴んで強く揺さぶった。それが本当ならばトラウマものだ。
ヒロミツさん曰く、詳しいことは仕事上話すことは出来ないが、要するに仕事上のミスで自殺せざるを得ない状況に陥ってしまい、拳銃で心臓を撃ち抜くその瞬間を親友である安室さんに見られてしまったらしい。
どうしてそんな状況になったんだ──今すぐに問い詰めたい衝動に駆られるが、何とか耐えた。
『う、うん。本当……てか酔うから揺するの止めて……』
パッとヒロミツさんの肩から手を離した。無意識に肩を掴んでしまった。
そして私が手を離したのと同時に誰かが階段から降りる音が聞こえてきた。屋上にいた安室さんだろう。
やがて階段からの音は聞こえなくなる代わりに屋外から車のエンジン音が微かに聞こえた気がした。
『……アイツ毎朝ここの屋上に来て、花束を置いていくんだ。俺が死んだこのビルの屋上にな』
「……なるほど」
安室さんが花束を持ってきていることは知っていたが、ヒロミツさんのために添えていた花だという結論にまでは至らなかった。
安室さんが居ないことを再確認した私は、屋上に出ると真っ先に紫色の花束が目に入る。安室さんが持っていたものだ。
『ヒヤシンスの花だ』
「ヒヤシンス?」
ヒヤシンス──名前までは思い浮かばなかったが、確かにどこか見覚えのある花だ。
ただ、死んだ人に添える花としてあまり見られないが、安室さんはどうしてこの花を選んだのだろうか。
『――私を許してください』
「……え?」
『悲しみ、悲哀……紫色のヒヤシンスの花言葉だよ』
そして、ヒロミツさんは添えられていたヒヤシンスの花をそっと撫でた。とても優しい手つきだった。
『俺が自殺して数年が経ったある日、アイツはこの現場に立ち寄ったんだ。
俺が壁に寄りかかって死んだのを真似するかのように、アイツもこの壁に寄りかかって……そして声を殺して只管泣いていたんだ』