第3章 散り、咲き乱れし華【R18】
その頃、煌の部屋を訪ねる人物が一人…執事の桜庭であった。
桜庭「煌様、お嬢様がそろそろキッチンを出られます」
煌「分かった。桜庭、此処を片付けておけ」
上からな煌の口振りを、何も気にならないとばかりに一声も発す事無く、頭を下げる。
そんな桜庭の姿を見もせずに、煌は足早に部屋を後にした。
少し歩けば、此方に向かっていた雪音と出会した。
雪音「…ぁ、お兄様。用事はお済みになられたのですか?」
煌「大丈夫。ごめんね雪音、今日はずっと一緒に居ようって約束していたのに」
幼い頃より聞き分けの良かった雪音。
煌が忙しい身であると理解し承知した上で、今日は自分を甘えさせてくれているのだと…雪音は胸がいっぱいな程、嬉しかった。
雪音は、煌が父の様な無理をせずに自分とこうして時折過ごしてくれるだけで十分だった。
雪音「お兄様、雪音は嬉しいのです」
煌「ん?」
両手を合わせ、自分の口元に添える雪音。
その仕草の所為で胸が寄せられ、自らの服の胸元が厭らしく皺を作っている事など気付かずに…。
ただ、嬉しそうに無邪気な笑みを兄へと向ける。
雪音「お兄様がお休みを取って下さった事、本当に嬉しくて……お兄様だけは、どうか居なくならないで…っ!」
再び口を開くと、不安げに雪音の眉が下がっていく。
父の突然の死は、煌が想像していた以上に雪音の心に不安と哀しみを植え付けていた様だ。
涙目になりながら、感極まったのか煌に抱き付く雪音。
その妹の背を優しく撫でる兄としての煌の顔は、とても優しい温かさを湛えていた。
煌「雪音は優しい子だね。僕はとても恵まれた兄だ、こんなに優しくて可愛い妹が側に居てくれるんだから…」
そう言って、雪音を抱き締め頭をやんわりと撫でた。
妹を慈しみ愛す煌。
しかし…今宵訪れるであろう妹の不幸の元凶が自らである事に、煌は良心の呵責どころか、雪音が見えぬのを良い事に口角の端を吊り上げほくそ笑んでいた。