第2章 幕開け
煌が帰宅したのは、父である要が死んでからは初めてと言って良い程早い、夜の21時を少し回った頃だった。
雪音が使う、二階の部屋からは表の様子がよく見えた。
玄関から離れた門が開き、車が入って来る。真っ白な車体で兄の乗る車だ、そう気付けば雪音は慌てて玄関へと向かった。
玄関に着いて暫くした頃、ガチャッという音と共に扉が開いた。そして兄の姿が見えた途端、雪音の胸には嬉しさが広がる。
その嬉しさを爆発させてしまわぬ様、雪音は自らの胸に片手を添えて口を開く。
雪音「お兄様。こんな、こんな早く帰って来て下さるなんて…雪音は、とても嬉しいです…っ」
それでも、雪音の笑顔はいつもより輝きを放ち、声は歓喜という感情に彩られていた。
煌は妹の頭にポン、と手を置いては優しく撫でる。そして、他人に向ける作り物の笑顔では無い、優しい兄らしい笑みを浮かべる。
煌「ただいま、雪音。いい子にしていたかい?」
雪音「もう、お兄様ったら。私はそんな子供ではありませんよ?」
自らが幼少の頃より変わらぬ兄の言葉に、一瞬むっと唇を尖らせる雪音。そして、クスッと楽しげに笑うと僅かに首を傾ける。
愛らしさに胸がきゅっと締め付けられる様な感覚に、煌は襲われた。それは、計画への罪悪感等では無く、妹に対する性欲という名の欲求の様に感じられた。
紛らわすかの様に自らの上着を脱ぎ、妹へと上着を差し出す。その様は、端から見ると夫婦である様に映るのかも知れない程自然で、当然の様な行動であった。
兄から上着を預かり、通いのメイドが来た際、クリーニングに出して貰う物を入れておく用にと用意した籠に、上着を畳んで入れた。
煌「明日……学校を休んで僕と一日一緒に過ごす、何ていうのは僕の我儘かな?」
雪音が籠に自らの脱いだ上着を入れている後ろ姿を、煌は見ていた。
短い裾の部屋着を身に纏う、その姿は極めて扇情的で、煌の胸に熱くドロリとした何かが溜まっていく様な、そんなおぞましくも甘露な感覚を覚える。
そして、明日から開始する計画の為に、煌はそう問い掛けた。