第1章 スティーブ・ロジャース(MCU/EG)
それから十数年後。再会を果たしたのは秘密裏に存在する戦略科学予備軍研究施設内の通路だった。俺は三本目の投与を終えたばかりで意識が混濁していたものだから、肩をぐっと掴まれて無理に振り向かされた先に立つ人物が実在していると思わなかった。
「レイン!」
「……スティーブ?」
スティーブを伴って歩いていた研究員の男はすれ違うなり名前を呼び合った俺達を訝しげに睨んできた。とろんと酩酊する俺から意識を逸らすみたいにスティーブは彼の手に過剰なチップを握らせて、『五分くれ』と言って俺を近場の部屋に連れ込んだ。
何ヶ月もこの施設に出入りしていたけれど指定された部屋や実験室以外は入ったことが無かった。半ば飛び込むように入った部屋に誰もいなかったから良かったものの、意外にもスティーブは大胆な男のようだ。こういうところも俺とは違うんだな。
ぼんやりしながら腕の注射痕をカリカリと甘く掻いていると、スティーブはそれを目敏く見咎めて手首を握って止めてきた。木の実のように紫色になった腕を、俺より少し低い位置にある意思の強いブルーの瞳が鋭く射抜いて居心地が悪い。その時になってようやくスティーブが怒っているのだと分かった。
「スティーブ……」
「これはなんの痕なんだ」
怯えを含んだ声が喉を震わせて名を呼んでしまっても、スティーブはなおさら追及の手を緩めなかった。注射痕というには刺し痕が多い自覚はある。何度も何度もスーパーソルジャー計画の被検体として超人血清を打つのに、俺の身体は全く変化を兆さないのだ。その証拠だとばかりに俺の腕には細かな穴と痣が残って消えない。
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