第1章 スティーブ・ロジャース(MCU/EG)
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俺達が出会ったのは氷漬けにされる遥か昔、ティーンの時だった。仕事の関係で転勤の多かった父に従ってスクールを転々としていた俺は、友達の作り方を知らず、いつも教室の片隅で窓の外を眺めては一日が過ぎるのを待つばかりだった。そんな俺に初めて優しく声を掛けてくれたのがスティーブ。親交を深めるにつれ暴かれた己の弱さに喘ぐ俺を励まし、日常のあらゆる酷遇……とりわけ虐めという分かりやすいカルチャーに立ち向かう術を教えてくれたのもスティーブだった。
俺と同じくらい身体が細いスティーブが逞しい体躯を持つ大男に立ち向かっていく姿は圧巻で、傷つく姿が痛々しいのに、その勇敢さからは目が離せなかった。路地裏でゴミの山に突っ込んだ彼を助け出した後、俺の代わりに殴られていたのに何より真っ先にこちらの心配をしてきた時は思わず抱き締めた。
人は彼を無謀と笑う。しかし、恵まれない肉体であっても人間は立ち向かえる……それをスティーブは身をもって証明してくれたのだ。
程なくして俺はブルックリンから離れる事を余儀なくされたが、スティーブとは手紙での交流を続けていた。手紙の内容は専ら彼の親友について触れていたが、彼が便りをくれるだけで嬉しくて、どんな内容だって構わなかった。
たかが文字、されど文字。柔らかい文体で紡がれる『また会いたい』というスティーブの言葉は次第に心の真ん中を熱くさせる。彼のことを愛していると全身が打ち震えて歓喜するまでそう時間は掛からなかったが、世界大戦の勃発が無常にも紙面上の逢瀬を引き裂いた。
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