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星条旗のショアライン

第12章 スティーブ・ロジャース(MCU/誕生日)



(10)

頭の芯に熱が灯る恥じらいを感じながら素直に思いを吐露すると、スティーブは薄暮の曖昧な斜光から逃れるような心悲しい表情で長い睫毛を伏せた。それによって普段の彼からは想像もつかない、形容し難い儚さが生じている。
責任感と実直さが人の形を成して息をしているような存在が言葉を詰まらせる姿に戸惑った。今にも「聞かなかった事にするよ」と突き放されそうな雰囲気に怖じ気付いて、名を呼ぶ声が比例して小さくなっていく。
すると俺の声より遥かに小さな囁き声で「確かに君は人より丈夫でいつも僕の盾とならんとしてくれる。でもそうじゃないだろ、君の本質は。レイン、キャプテン・アメリカの為だけに生きなくていいんだ」と耳打ちされた。
「……――」
小さな拒絶の言葉が刃のように鋭くて、自己憐憫に浸る醜さを無惨に切り裂く音がする。言葉の駆け引きも有ったものではない。スティーブには若干のデリカシーが欠けていた事をすっかり失念していたな。俺が一番言われたくなかった言葉をいとも簡単に口にされてしまった。
(頭がぐらぐらする……)
「俺の本質」とはなんだろう。今の俺は過去に囚われたまま罪悪感だけでキャプテン・アメリカの手となり足となっているとでも言いたいのだろうか。理性的に彼と対話すべきなのは分かっているのに、いざ唇に意思を通わせると余計な台詞が口を突いた。
「ならもう、そばにいない方がいいってことか?」
「……レイン」
縋るほど惨めだった。口に出すほど、聡明なスティーブは本来の意味を汲み取るだろう。離別の不安を当人に問うことは『傍に居たい』と訴えているようなものなのだから。もう俺には虚勢を張って取り繕うほどの知性もないらしい。
懸念した通り、彼は咳払いのような軽い失笑を漏らしたのち、熱を孕んだ喜びの溜め息と共に「曲解したな」と呆れて眉尻を下げた。前髪を掻き上げる色っぽい仕草から目が離せないでいれば、癇癪を起こした幼子を鎮めるような慈愛に満ちたキスで視界を遮られる。

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