第12章 スティーブ・ロジャース(MCU/誕生日)
「……ん」
「誤解しないでくれ。レインにはキャプテン・アメリカの為じゃなく、スティーブ・ロジャースの為に生きて欲しいだけだ」
「……今までもそうしてきたよ」
「分かってる。君がずっと僕の傍にいてくれたこと。でも君は忘れてるんだ、僕達の間で芽吹いているものを」
「……」
おいで、と続く言葉にふらふらと従って立ち上がれば、スティーブはチップを差し出し、バーテンダーから簡単な許可を取り付けてからクロム風のシルバーエイジを操作し始めた。コインを投入してプッシュボタンを押し込み、数枚のレコードから情調を備える曲を選び抜いてセッティングさせる。
(……俺達の時代の曲?)
あっという間にメロウなジャズが酒場を満たし、突然の転調に客の半数が不満の声を上げた。先程までアメリカのロックアンセムが活気付かせていたのだから当たり前の反発といえる。しかしスティーブが俺の手を引いたままフロアの中央へ向かい、片膝をつく姿勢で跪いた事から空気は一変した。掬いあげられた手に恭しく押し付けられる唇に瞠目する。
「な、なにしてるんだスティーブ!」
「レイン」
「頼むから立ってくれ!」
「レイン、約束を果たします。僕と踊ってください」
→(未)