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星条旗のショアライン

第12章 スティーブ・ロジャース(MCU/誕生日)



「乾杯」
「ああ。乾杯」
先ずはメキシカンスタイルで呷る。さすが初心者にも口当たりの良いとされる銘柄だ。シトラスの爽やかな風味も癖になりそう。グラスの縁や指の関節へ岩塩を乗せて舐めながら呑むと更に喉越しが良かった。最後にライムを齧れば尚良し。岩塩やライムが喉や胃の粘膜を保護してくれることを知ってか知らずか用意したスティーブは相変わらずの気遣いを見せている。
(まあ、互いに酔いやしないけれど)
――スーパーソルジャーは酒で酔えない。内臓の驚異的な代謝が早い段階でアルコールを即時分解してしまうからだ。しかし実のところ、口に含んだ瞬間だけは酒精に襲われる。苦く弾ける微炭酸を舌の上で転がして飲み下した瞬間、灼熱の波が眼窩を焼いて喰らい付いてくるが、直ぐに血の気が下りて平素に戻るのだ。
なんだかその現象が無性に面白くて、スティーブにグラスを奪われるまで夢中になって酒を舐めていた時期がある。重要なのは呑み続ける事ではない、最初のひとくちだった。程良い快感を孕む酩酊はその瞬間だけ訪れる。スティーブもそれを理解していたからこそ、俺の酒に対する異様な執着を阻止したかったに違いない。
(当時は長い眠りから目覚めたばかりで不安定だったから……ヒドラの時の記憶もほとんど無かったし、恥ずかしい話だが、酒に逃げていたんだろう)
そんな過去があるばかりに、下限も上限もない無尽蔵の俺に依存性の少なさそうな酒をすすめるのだろう。テキーラは竜舌蘭から成る純度の高い蒸留酒だ。余韻という名の遊びがあるビールやワインを下手に呑み続けるより、さっぱりとした強いアルコールの方が俺にとって楽だということを彼は知っている。

(9)

静かに酒を呷るスティーブへ身を寄せながら緩やかな微睡みと共生していれば「あれから調子はどうだ」という吐息を旋毛に吹き落とされた。他人のダーツゲームをぼんやり眺めていたから彼の発言を聞き落としてしまったけれど、おずおずと視線を絡めながら曖昧な相槌を打つと繰り返してくれた。

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