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星条旗のショアライン

第12章 スティーブ・ロジャース(MCU/誕生日)



「レイン、待て。どこまで行くんだ」
「っ……!」
ウェアハウスの路地に差し掛かると、とつぜん腹回りを抱かれて重心が後ろへ引き上がる。靴先が浮きそうになるのを阻止しようと奮闘するも虚しく力の均衡は崩れ去って僅かな遠心力に振り回された。たたらを踏む内に立ち位置がくるりと半歩移動し、息付く暇なく暗がりに引き込まれてブロック壁へ背中から押し付けられる。
随分な強硬手段に出たものだ。手法が乱暴な割に鼻先三寸もない目線の先の表情は甘く緩んでいて柔らかい。この調子だとまだ揶揄うつもりなのか、熱く脈打つ左腕で腰を抱き、右手で俺の左手を握り締める。路地裏とはいえ何処に人の目が有って誰に見られるかも分からない場所なのに、彼にしては行為が大胆だった。熱が伝播して触れ合う部分が燃えるよう。心拍も跳ね上がって自然と呼吸が乱れる。
「っ……今日は意地悪だな」
「君には僕が意地悪に見えてたのか?」
「……街中で手を繋ぐしチュロスを無理に食べさせるし、高級レストランでディナーなんてサプライズ用意してるし」
今も追い詰めてくるし……とは唇が食まなかった。夜ともなり薄らと髭を感じるスティーブの頬が微かに重なって触れ合った後、鼻先を決して離さずに皮膚の上を滑らせ、擽ったくなるようなノーズキスを施してきたからだ。何をされるか分からない恐怖と昂りで感覚が鋭敏になっていく自覚から、肩が卑しくひくんと跳ねることが恥ずかしくて堪らない。
「クローズドレストランだよ」
「クロー…………そこはどうでもいいよ。他に客が入らなくても給仕が素人でも俺にとっては一大事だった。それを笑った君が意地悪じゃなくて他になんて言うんだ」
「僕にも言い分がある事ばかりだな。それに大事な部分は全部見落としてる。ストレートにアピールしたつもりだったのに何も分かって貰えてないなんて。僕に言わせてみれば君の方が意地が悪いよ」
そう言ってから初めてムッとしたスティーブは、俺を強く抱き締めると直ぐに密着を解いて手の繋ぎ方を変え、潔くコンクリート打ちの路上を闊歩し始めた。手指を絡める親密さが増した握り方は映画やドラマで覚えた筈の名前で……確か、恋人繋ぎだっけ。
「スティーブ、どこ行くんだ」
「君がそれを言うのか?」
「パーキングはこっちじゃない」
「まだ帰らない。最後は僕の行きたい所だよ」
「最後"も"」
「ほら急ごう」

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