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星条旗のショアライン

第8章 クリント・バートン(MCU/人工知能)



「ありがとう、クリント。忙しい時に」
「お前の為ならお安い御用だ。礼はまた考えとくからさ」
「分かった」
人好きのする優しい笑顔で冗談を言うクリントに笑顔で返事をすると、頭をぽんぽんと撫でてからこめかみの辺りの短い毛束を摘まれた。「髪切ったか?」なんて容姿の機微に聡い、人間の地力が高い事を言って俺をかどわかしてくるところなんかは胸が擽ったくなってしょうがなくなる。クリントの大好きなところのひとつだ。
休憩室へと場所を変えても、二人分の飲み物を然り気無く用意してくれる優しさに心打たれる。すっかり俺の好みも熟知していて砂糖とミルクが適当な量で注がれたコーヒーが差し出された瞬間に不覚にもときめいた。啜れば優しい甘さと仄かな苦味が絶妙で旨い。次の職に困っているなら喫茶店のマスターをやるべきだ、と感動のまま揶揄えば「ばーか」と失笑して肩を叩いてきた。閑話休題。

(4)

「で。先ずはどうするんだ」
「正直どう聞き出そうにもトニーにはバレてしまいそうで」
「だな。じゃあキャプテンにその端末をそれとなく見せてもらえれば理由も分かるんじゃないのか?」
「何故かと必ず聞いてくると思うぞ」
「まあ……ローズ中佐曰く、ソレを通してお前に関しての『何か』を共有しているわけだし、そう簡単にはいかないよな」
自身の頭髪を撫で回しながら一緒に頭を悩ませてくれていたクリントだが、急に閃いた顔をしてマグを机上に置いた。未だコーヒーを啜っていた俺に人差し指を突き立てて一言、「端末をレイン自身がこっそり操作して中を見るのはどうだ」と言い放った。
「心苦しい選択だが、それは俺も考えた。だが俺は現代の機器に滅法弱い。スマートフォンだパソコンだ、何が何だか」
「あー……このあいだ任務が一緒になった奴もぼやいてたっけ。お前が通信機を全く装着してくれないから問いただせば『付け方が分からない』と言われたって」
「む……俺の居ぬ間にそんな話を」
「可愛いって話さ。みーんなお前を愛してるんだ」
「はいはい」
軽口に生温く笑ってみせてから最後の一口を飲み干すと、立ち上がったクリントがまたもや然り気無く俺の手から空のマグを攫ってシンクへと向かっていく。

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