第8章 クリント・バートン(MCU/人工知能)
『犬猿の仲』というのはトニーとスティーブのことを言うんだろう。会話のさなかで軽口を叩きやすいトニーと、良く言えば実直で悪く言えば頭でっかちなスティーブとでは意見や価値観の食い違いは日常茶飯事だ。思いやって尊重し合う事もしょっちゅうだけど、啀み合う回数の方が遥かに上をいく。
「助かったよ、スターク」
「なに、君の為だ」
それがどうしてひとつの端末を二人で見詰めながら額も付かんばかりの距離で意気投合しているんだろう。未だかつて見たことがないくらいの笑顔を花咲かせながら端末を大事そうに持つスティーブを、子を慈しむ親のような、それでいて得意気な表情で窺うトニーという図は俺に大いなる衝撃を与えた。
(2)
――という場面に遭遇した事を何の気なしにローディに話すと、何故か苦い笑顔を返された。「何も知らないっていうのは時として幸福な事だな」と諭されてしまって何が何だか。しかし俺も馬鹿ではない。中佐は暗にあの二人が仲良くしている理由を知る事は俺にとって不都合と言っているわけだ。そうなればどんな結末が待っていようと俄然知りたくなる。今の俺は何よりも好奇心が優っていた。
(だが、簡単に理由を聞き出せるだろうか)
問題はそこだ。中佐に理由を尋ねてもやんわりと突き返されてしまったし、当事者に探りをいれるしか道は残されていない。かといってトニーは軽口の魔術師のような奴だから有耶無耶にされて終わってしまうだろうし、スティーブはそもそもトニーと仲が良い事実を認めるかどうか分からない。早速、先行きが不安になってきてしまった。
(3)
二人の関係に探りを入れるどころか、話そのものが暗礁に乗り上げようとしていた矢先の事だった。半ば諦めていた俺に、どこから情報を得たのか「面白そうだから」と言う理由でクリントが協力を申し出てくれた。ウルトロンとの戦いの後は家族の元へ戻った記憶だが、残務処理は未だ残っているらしくまだまだ忙しく働いているそうだ。
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