第5章 マイティ・ソー(MCU/AoU)
昔、軍事施設から盗み出したヴィブラニウムは不完全で、スティーブの持つ同個体の盾より遥かに脆いものだった。しかしウルが混じることにより、より完璧な硬度が備わったのだと聞かされている。人の体に不可思議なものを入れてくれてどうしてくれようと思った事もあったが、今にしてみればヒーロー活動を通して無くてはならない要素だから受け入れている。まあ、過ぎたるは及ばざるが如しだが。
(3)
「認めないぞ」
ごとり。ムジョルニアを机に置くと、ふんぞり返っていた筈のソーが革張りのソファから背を浮かせ、眉宇に深々とシワを刻みながら俺を睨んだ。あー……しまった。トニーに唆されて思わず持ち上げてしまったが、ソーへのお膳立てをすっかり忘れていた。せっかくスティーブが社交辞令を済ませたところなのに台無しだ。いまさら言い訳は出来ない。目撃者はこれだけいる。
「フリーマン……」
「ソー、これは、その……」
ソーがまばたきをする度に眦から雷が散る。相当お怒りのご様子だ。金属が電流を通し易い関係であまり近くに寄らなかった事が災いし、碌な会話もしたことが無いくらいの希薄な関係にあった俺達だが、今それを確かなものにしてしまった気がする。
助けを求めて皆を振り返ると、触らぬ神に祟りなしとばかりに一様に目を逸らす。スティーブまで。トニーに至ってはこの結末が分かっていたのか、先程とは打って変わって至極愉しげに嗤っていた。
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