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星条旗のショアライン

第5章 マイティ・ソー(MCU/AoU)



「よし、乗った。良いだろう」
「レインもスタークの軽口に付き合うな!」
「俺が信じられないか?」
「なに……?」
「ハンマーを持ち上げさえすれば、俺の体はトニーに弄られる心配がないわけだろう。だから信じて見ていてくれ、スティーブ」
「レイン……」
興奮するスティーブを見上げながら血管が泡立つこめかみに指を添えて撫であげてやると、彼は少し思案した後に肩で息をしたまま小首を傾げて掌に頬を寄せてきた。長い睫毛を震わせて悩ましげに瞳を閉じる、悩殺レベルな表情付きだ。
それを見たローディとナターシャが囃し立てたが、構ったら付け上がるだけから言わせておけばいい。とにかくこれで番犬みたいに吠え立てていた正義漢は大人しくなった。あとはトニーを実力で黙らせるだけだ。
「俺が持ち上げられたら……そうだな、トニーには向こう一ヶ月の断酒をしてもらおうかな」
「勿論だとも」
「……言ったな」
俺のヒドラ仕込みによる悪い笑顔を間近で見てしまったクリントは顔から血の気を引かせていたけれど、のぼせ上がった俺にとってそんな些細な事はどうでも良かった。

(2)

「嘘だ……」
「……やりやがった」
「さあ、トニー。今日からひと月の間、酒はアンティークだ。手に取って眺めるまでなら許してやろう」
得意げに笑ってやるとトニーは一瞬ムッとしたものの、一転、固い笑顔で流石だと手を叩いた。スティーブも珍しく呆けたような顔で俺とムジョルニアを交互に見る。
(……さて)
手の中でムジョルニアが啼く。片手で軽くジャグリングしてやると、宇宙の理をひっくり返した様な甲高い唸り声が響いて肉体と共鳴していくのが分かる。きっと俺が、高潔な魂を持つ認められた人間では無いのに自分を持ち上げたものだから不服なのだろう。
皆には黙っているけれど、俺の中にある金属はヴィブラニウムだけではない。ムジョルニアと原料を同じくするウルという金属も僅かだが混じっている。俺には金属同士が引き合う確信があった。

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