第5章 マイティ・ソー(MCU/AoU)
ソーのムジョルニアは高潔な魂を持った選ばれた者にしか握ることが許されないという。要するに普通の人間には持ち上がらないというわけだ。
クリントもバナー博士もアーマーを装着した状態のトニーとローディも駄目。ゆいいつスティーブだけが僅かに傾かせることに成功していたが、結局持ち上げる事は出来なかった。とはいえ余裕そうな表情を見ていると本当は持てるものの、ソーの面子の為に無謀な挑戦だったフリをしているようにも見えてくるから恐ろしい。
スティーブがソファに身体を落ち着けたのを合図に、皆の視線が横で寛いでいた俺に注がれる。薄々は挑まなければならないと分かってはいたけど、わざわざ試さなくても結果は見えていると思うのは俺だけだろうか。
「ほら、金属の紳士くん。やってみせてくれ」
琥珀色の酒が入ったグラスを回しながら、前へ出てムジョルニアを握るよう促すトニーの表情は何処か嘲りを含んだ笑みに形作られており、俺を適度に焚き付けた。リラックスする姿勢のくせ、ことうらはらに人の闘争心を煽るとは彼らしい。ついそれに乗っかってしまう俺も随分なものだった。
「無理だった場合は君の身体を隅から隅まで調べる権利を私に譲ってくれよ。隅から隅までだぞ、身体の中の……あんなところやこんなところもだ」
「スタークッ!」
トニーは俺を使ってスティーブをからかうのが本当にすきだなぁと実感するのはこんな時だ。スティーブがまた良いリアクションをしてしまうから調子に乗る。
それはさておき、確かにトニーは以前から俺の体の中に含まれるヴィブラニウムに興味を示していた。どのように肉体の組織と金属が結びついているのか気になるらしい。正直に言うと俺も良く分からない。ヴィブラニウムを俺の中に注いだのはヒドラだからだ。正しくはコズミック・キューブ……後の四次元キューブだが。
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