第4章 【長編】スティーブ・ロジャース(MCU/WS)
(4)
パラシュートを装着せずにハッチから飛び出す。長い距離を無酸素のまま降下していき、炭を流したように闇が深く仄暗い海へ着水する。本来は海面を泡立てず音もなく入水するのは至難の業だが、運良く夜の漣がそれを打ち消してくれた。
「はっ……」
海面から顔を出して口内の塩水を吐き出す。壁のように反り返る船尾を眼前に捉えながらどのようにして乗船するか考えつつ身を泳がせていれば、キャプテンが既にアンカーの鎖へ乗り上げて手招きしている姿が見えた。成程、そこから登っていくわけか。心得て近付けば伸ばされる腕。手首を掴んで一気に引き上げて貰い、簡単に頷き合ってから鎖を駆け上がる。
船内は見張りが居るものの恐ろしいほど静かだった。海賊が不当に占拠しているというのに物音や声の類は一切聞こえない。一時間半足らずで何人もの技術者を拘束し、従わせ、船の外部を警戒するだけの統率の取れた組織が相手なのだとよく分かる状況だ。とはいえ所詮はただの傭兵。キャプテン・アメリカとS.H.I.E.L.D.きっての武力部隊が相手では勝ち目などないだろう。
「レイン」
「いつでも良い」
手摺を乗り越えてデッキに上がる。背を向けている傭兵一人を後ろから締め上げて意識を落とすまでは容易く済ませ、キャプテンは反時計回りに、俺は時計回りに駆け出した。デッキを蔓延る傭兵達――我々を警戒していない奴等は完全に油断しきっていて、肩を三回叩けば簡単にこちらを向いた。状況が分からず身を固めてももう遅い。額を握って掴み上げ、手摺より向こうにおわす生命の母たる胸元へと放り投げてやる。途端に悲鳴が海へと吸い込まれていった。
(さて)
目指す先はバトロックがいる筈の操舵室。結局無能なリーダーという奴は全貌が良く見えていざと言う時に逃げ延びやすい場所に留まりがちだ。あとは高い場所を好む。船でその条件が該当する場所は操舵室だけだ。
階段を飛び降りて第二甲板へ。着地もそこそこに柱の影へ走り寄って身を隠す。どんな銃弾も弾く自信があるが、人質の囚われている位置が特定できない以上は隠密に進めたい。
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