第4章 【長編】スティーブ・ロジャース(MCU/WS)
顔を覗かせて周囲を窺えば、中央部の広々としたデッキに三・四人の傭兵が固まって待機している姿が確認出来る。少なくともここには居ないらしい。侵入に気付かれた様子もなく、近くに緊急用のサイレンもない。奴らを一網打尽に出来るチャンスは今だろう。
消音機能を高めた特殊加工のブーツで静かに床を蹴る。齧歯類の足音よりも小さく、鳥類の羽ばたきよりも滑らかな音。身を低く保ちながら、膝が胸を掠めるくらいまで脚を漕ぎ一気に前進する。先ずは一番手前の男を足払い。勢い良く後ろに転んだ男は受身もとらずに後頭部を強かに打って自滅した。骨の弾ける嫌な音を聞き拾った残りの三人が慌てて小銃を構えて迫ってくるけれど、無駄だ。一発の銃弾が放たれて俺の額に当たるものの甲高い音と共に床にぽとりと落ちた。
「なんだ、こいつ……」
「銃が効かねぇっ」
銃弾など良くて焼き菓子のような硬さのものが投げ当てられているくらいの感覚でしかない。痛がる演技でもしてやれば満足かもしれないが、生憎そんな暇はないのだ。銃で撃たれても死なない人間を前に気を乱した男達は得物を放り投げて、小型のナイフを広げながら距離を詰めてきた。成程、銃がダメならナイフか。でも残念、やはり無駄だ。
(5)
人間誰しも颯爽とピンチに駆けつけられるものでは無いらしい。傭兵を片付けて操舵室へ急いでいると、既にひとつの見せ場を終えたような雰囲気のキャプテンとラムロウがメインマストの良く見える中央通路で合流していた。パラシュートのアジャスターを外していたラムロウは俺を見留めるなり、人の悪い笑みを顔に貼り付けるや否やキスを飛ばして来る。しかも見本のように美しいウインク付きだ。腹立たしい。ラムロウのその仕草に一瞬怪訝な表情をしたキャプテンも、俺に気付くと片手を挙げて迎えてくれた。
「遅いぞダーリン」
「悪かった」
「今度はしっかりキャプテンの力になれよ」
「……わかってる」
胸を拳でトッと小突かれて気を引き締める。台詞は相変わらず軽薄だが言葉そのものは言い得て妙だ。といっても少しだけバツが悪く感じられて笑みを噛みながら小さく「ありがとう」と伝えれば、彼は身を固くしたあと気恥ずかしげに片手で顎先を撫でてから「いいさ」と、表情をこだまさせた。
続く