第4章 【長編】スティーブ・ロジャース(MCU/WS)
皆が腰を上げて準備を始めれば後方のハッチが開く。冷え切った空気を感じて肌がさざめいた。通信無線のチャンネルを調節したキャプテンとナターシャがちょっとした日常会話をしている脇で、ラムロウが「ほら、お前はこっち」と言って俺の肩を優しく抱き寄せる。まるで周囲に馴染めない子供をあるべき場所まで導くような甲斐甲斐しさだ。その証拠に無言で引き寄せられた手首に通信機を装着され、正しいチャンネルを設定し直してくれた。
「できた」
「悪いな」
「レインはキャプテン以上に疎いな」
「百歳間近のじいさんなもので」
「はいはい」
「君はS.H.I.E.L.D.をクビになったら次は介護職なんかどうだ。板についてるぞ」
「そいつはどうも」
『降下ポイント接近』のアナウンスと共に失笑したラムロウは俺の背中を愉快そうに叩きながらインカムを弄る。強面が一気に解けて破顔する様は悪くない。彼が俺の拙い冗談に笑ってくれるとこちらまで嬉しくなってしまうから、ついつい言葉が重なってしまってならないのだ。普段も良くキャプテンが割り込んで来て会話を中断させるから、相当な時間はくだらない会話を繰り広げているのだという自覚があった。
今もラムロウの手がキャプテンによって振り払われて、俺は無遠慮に引き寄せられた。顔と体はナターシャへ向けられているのにヘルメットを調整していない方の腕はがっちりと腰に巻き付いている。器用な事だ。少し苦しい。
「またな、ラムロウ」
「任務を忘れてデートに行くなよ」
「はいはい」
キャプテンは無秩序を許さないだけだ。あと心配性なだけ。デートというよりこの場合は自らお荷物の監視に着く役を買って出ただけだと思う。電子盤に向かって入力作業を始めたラムロウにひらひらと手を振れば、手首ごとキャプテンに鷲掴まれて止めさせられた。はいはい集中するさ、そんな睨まないでくれ。
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