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星条旗のショアライン

第3章 マイティ・ソー(MCU/DW)



「雷神よ、無事か」
「……それは俺の台詞だ。感謝する、フリーマン」
背後で車のボディにぶち当たりながら遠ざかる敵を音で判断しつつ握手を求める。どこか不満そうな顔をしながらも痺れるような力強さで握り返してくれた。

(3)

途中までは順調だった。近場に身を隠していた女史によるところの磁場の乱れと言う現象に翻弄されて、鉄の塊と化した廃車と共に空間を出たり入ったりしながらも着実に敵を追い詰めていくソーの姿は圧巻だった。やはり手を貸す必要はなかったかもしれない……民間人を安全な場所まで誘導しながら離脱の方向で検討していたが、真の危機とは油断した時に起こるものだと言う事をすっかり失念していた。
「……!」
地に叩き付けられて気を失ったソーへ向かい、バランスを崩した巨大戦艦が大きな唸り声を上げながら倒れ込んでいく。誰もが息を飲む中、遮蔽物から飛び出した例の女史が勇敢にもソーを庇うように覆い被さった事で更なる被害が瞬時に脳内で演算された。
(この……っ!)
ソーひとりなら抱えて逃げる事も出来たし、多少無体な方法で安全圏に運んだって構わないと思っていたが、民間人もとなると話は変わってくる。今から二人の人間をあの場から移すのは難しい。ならやはり俺自らがあの巨大戦艦を止めるしかない。鉄骨が剥き出しの壁材や床石などを飛び越し掻き分け、支点を危うくする巨大戦艦の足元まで滑り込むと、その馬鹿でかい宇宙人の遺失物を強烈な衝撃と共に背負う。
「がっ……!」
――真の危機とは油断した時に起こる。受け止めた体勢が悪かったのか、頸の後ろを運悪く強打して視界がブレるほどの眩暈を覚えると、吐き気にも似たものが込み上げて、次の瞬間には鼻から血が勢い良く吹き出した。
「うっ……ぐっ!」
「あなた、血が……!」
女史が俺を心配する声を上げるが、正直、真っ当な返事が出来ない。弁が壊れた蛇口のように血が止まらずにいるせいで口呼吸を強いられているからだ。
その間にも戦艦は重力に従って重さを増していく。比例して足首が土塊に埋まり始める頃、全身の筋繊維がぶちりぶちりと千切れて悲鳴を上げ、その後に冷気が物体を凍らせるような音が事実をひた隠す。

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