第21章 ルーカス・リー(SPvsW/最終話)
「なにがあったんだ、壁を突き破ってきたけど」
「話せば長くなるよ。でもこれだけは言える。やっぱりトッドは『邪悪な元カレ軍団』の一人だった。君の力を貸して欲しい」
「えっ、嫌だ」
「トッドはエスパーなんだ、僕一人じゃ無理だよ」
「なおさら嫌だ」
「ほら準備して!」
「話聞いてるっ!?」
スコットはぎゃあぎゃあ喚く俺の声が全く聞こえていないみたいで、或いは余程に切羽詰っていて聞こえないフリをしているのかもしれないけど……勢い良く立ち上がってたちまちフロアを駆け抜け、地に伏したベースを手繰り寄せて性急な準備を進めた。挑戦的な視線を壁の穴へ向けているから今からトッドとベースを使った対決をする気なのかもしれない。
予想通り、ひとつ息を飲んだスコットが弦を鳴らす。ディー・メジャーの低い音を規則的に打ち鳴らし、対戦相手を挑発する姿はクールで格好良い。これが邪悪な元カレ軍団とのくだらない争いの最中じゃなかったらうっとりと聞き惚れているところなんだけど、そうは問屋が卸さない。
「!?」
暫くして穴の向こうからステージに立っていた時とは異なる衣装を身に纏ったトッドが現れた。愛用のベースをしっかり携えているところから見てスコットの挑戦を受け入れたのだろう。しかし度肝を抜かれたのはそこじゃない。瞳をライトみたいに物理的に光らせて髪を逆立たせた状態で浮遊していたからだ。有名なベーシストともなると宙に浮けるのっ!?
「えっ、あっ、えっ」
「レイン、落ち着いて!」
衣装にも物申したかった。真っ白なプリントTシャツに真っ白なボトムという組み合わせで既に肩透かしを食らった気分なのに、極めつけはTシャツのプリントが数字の三という点だ。背筋に冷たいものが走った。まさかとは思うけど『邪悪な元カレ軍団』の三番目だからじゃないよね。真相は知りたくない。
トッドは自信に満ち溢れた得意げな表情でスコットを睨んでいたけど、戦慄く俺に気付いた途端に真顔になった。怖い。普段から表情のない人物だと考察していたとはいえ、それを真っ向から見せられると萎縮する。あまりに怖くてルーカスをつい振り返ると、綺麗なウインクと投げキッスをされた。こっちもある意味じゃ怖い。そんなアピールは良いからちゃんと氷嚢で冷やしとけ。
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